第5回
超民族!
~廃棄物問題意識の国際基準、草の根貿易商品ショップ「ぐらするーつ」~


今、若者たちの間では空前の“民族ブーム”。
そんな中、日本初のNGOによる国際協力ショップ「ぐらするーつ」が話題になっている。
草の根貿易商品を扱うこのお店には、途上国でつくられた商品一つ一つに、現地の人たちがその商品をつくっている光景の写真や解説がつけられている。
「つくった人の顔が見える商品は粗末に扱えないし、ごみにもならない」と若い社長の小島美佐さんは言う。
こんなコンセプトの5~6人が入ればいっぱいになってしまう小さなお店が、世界的な廃棄物問題意識の基準になるかもしれないという。
「リサイクルの文化論」、第5回の今回は、“民族ブーム”、「ぐらするーつ」、そして廃棄物問題意識の国際基準についてみてみることにする。

1.話題の“草の根貿易”国際協力ショップ「ぐらするーつ」

「これって、超民族!」
今、若者の間で密かな人気を呼んでいるのが、東京・渋谷と池袋にある国際協力ショップ「ぐらするーつ」。
このお店には、ネパールの手織りのランチョンマットや麻のバッグ、タイの草木染めの布、ケニアのバナナでつくられたポストカードなど、エスニックな商品が並んでいる。それらの商品を手に取って、若者たちは「超民族!」と言って、買っていく。
「ぐらするーつ」は、発展途上国の人たちの経済的自立を支援する草の根貿易商品を扱うお店。5つのNGOと8人の個人が365万円を共同出資して1995年11月に池袋店をオープン、次いで、1996年4月の「アースデイ」の日に渋谷店をオープンさせた。
日本で初めてのNGOによる国際協力ショップということで話題を呼んだが、社長の小島美佐さんは当時、若干25歳だったことも話題を呼んだ。
草の根貿易とは、物の資金を与える援助ではなく、途上国の立場の弱い人たちのつくった商品を先進国の人たちが買うことで、自立を支援しようと、1960年代に欧米で始まった運動。
例えば、国際協力をしたいと思った人が、それまで勤めていた会社を辞めて、外国へボランティア活動をしに行かなくても、日本にいながらにして途上国の人たちがつくった商品を買うことによって、国際協力することができる。
途上国の生産者の働きに応じた適正な賃金を払い、労働時間や労働環境に気を配ったなかでつくられた手工芸品などを交易する。現地の環境保護のために、有機無農薬栽培や草木染めなどの技術が移転されることが多いのが特徴。
「ぐらするーつ」では、途上各国に輸入ルートのある25の輸入団体からの商品を扱っているが、特にタイやネパールなどのアジアの国々からの商品が多い。
欧米にも「ぐらするーつ」のような草の根貿易商品ショップは数多くあるが、アメリカは中南米、ヨーロッパはアフリカの国々からの商品が多い。
基本的には、現地の伝統的なデザインや手法をできる限り活かして商品をつくってもらうが、ほんの少し、サイズを変えるだけで日本のマーケットで売れたりすることもあり、商品開発のための多少の提案は行なう。
従来までの民族品ショップなどは、現地のおみやげ品をそのまま日本に持ってきて、わかる人だけが買ってくれればそれでいいといったような風潮が強かったが、「ぐらするーつ」は違う。
本来の目的は、いかにメジャー化して、日本で商品を売って、途上国の現地の人たちを経済的に自立させるかということ。ビジネスとして、シビアに消費者に近づくプロ意識を持っている。「ぐらするーつ」のお客の声を箇条書きにしたものや、販売成績を各輸入団体にフィードバック、商品開発に役立てたりしている。そのなかでも、売れ筋は天然素材や草木染めで、人のつくったぬくもりが感じられる商品だという。
今までは、このような国際協力を目的とした専門店は日本にはなかった。草の根貿易商品はNGOのバザーや通信販売など、知る人ぞ知るといったようなマイナーな存在でしかなった。しかし、このような店舗ができれば、とくに国際協力の意識がない人であっても、「“カワいい”から買った」ということが先にあって、国際協力は後からついてくるものとなる。そうすれば、より多くの人に対して、人のぬくもりを感じてもらうことができる。いいもののよさを知ってもらうことができる。それが、結果的に国際協力に結びつく。
また、「ぐらするーつ」は最近、意外な方向でも話題となっている。
50万円はするケリーバッグや、スカーフで世界的に有名な、あのフランスの高級ブランド「エルメス」のジャン・ルイ・デュマ社長が「『ぐらするーつ』に協力したい」と言って、自ら来日したからだ。
国際協力と手づくりのよさを話す小島さんの思いと奮闘ぶりがフランスの夕刊紙「ルモンド」で紹介され、その記事がデュマ社長の目にとまったのだ。
「エルメスの馬具工房から始まった手づくりのよさを160年間、守り続けている姿勢と、途上国の人たちの手づくりのよさを大切にする「ぐらするーつ」の草の根貿易の姿勢は共通するものだ」とデュマ社長は語った。
エルメスは、日本では客層が合わないなどの理由から、日本の企業との共同イベントは行なったことがなかった。しかし、デュマ社長の提案で「ぐらするーつ」のイベントへの資金提供の話が進んでいる。
今、「ぐらするーつ」は日本、アジアだけに留まらず、世界でも話題になろうとしている。その「ぐらするーつ」の27歳の社長、小島美佐さんに話を聞いた。

2.手づくりのものは粗末に扱えない、これがごみ問題解決の第一歩

私はふつうの短大を出て、ふつうの会社に就職した、ふつうのOLでした。4年前まで、OLだったのです。ちょっと、ふつうの人とちがったのは、旅行好きで冒険好きだったというところぐらいです。
しかし、海外へ行くたびに、アジアの国々や途上国の人たちのために何かをしたいという気持ちが強くなってきました。国際協力をしたいと思いました。
そして、グローバルビレッジにボランティアとしてかかわり始めたのですが、半年のつもりが、結局は3年ぐらいいました。そこを通して知り合った仲間たちは「草の根貿易ネットワーク」という有志の勉強会を始めました。そうしたら、突然、「お店を持たないか」という話がきたのです。勉強会のリーダーシップをとっていた私が、そのまま、社長をすることになってしまいました。
その勉強会のメンバーだった5つの団体が「ぐらするーつ」設立のための資金を出資してくれたのですが、日本には比較的、内向きなNGOが多いなかで、私たちは前向きなNGOだと思うんです。今までの内向きな活動に問題を感じていた団体だったのです。草の根貿易というものを一般の人たちに対してメジャーな活動として認めてもらうための第一歩を踏み出したという感じです。
私はいつも思っています。
くらしのなかに根ざしたものを使っていれば、ものというのは、ごみにならないのではないかと。
ながく使えるもの、つくった人の顔が見えるもの、手づくりのものには心がこもっています。こういうものは、粗末に扱うことができません。そういうものを買うか、買わないかの選択でもあります。
友達がつくってくれたプレゼントは粗末に扱えないように、つくった人の顔が見えれば、その商品も粗末に扱えません。そういう気持ちをもつことが、ごみ問題解決の第一歩になるのではないでしょうか。
そういうスタイルを「ぐらするーつ」では提案し、実践しています。

3.若者の環境意識を高める“民族ブーム”

若者たちが「超民族!」と言って、天然素材の麻のバッグを買っていく。
今の日本は、前代稀にみる“民族ブーム”。
それには、「リサイクルの文化論」の第3回で紹介した野外テクノ・イベント「RAINBOW2000」の影響は無視できない。環境プロデューサーの河内氏は、アメリカのネイティブ・アメリカンの民族性にほれこみ、共同生活をし、自然と共生するその精神を日本に持ちかえり、「RAINBOW2000」をはじめた。中南米やアジアの国々の民族品のアクセサリーやTシャツなどの衣装を身につけ、テクノ・ミュージックで野外で踊るというスタイルをメジャー化した。そのようなスタイルは“ゴア”と呼ばれることが多い。
イギリスで1980年代後半に起こったレイヴ・ムーブメント(野外で数千人規模で音楽に合わせて踊るイベント)は1990年代に入り、諸事情により、イギリス政府により禁止された。それでも踊りたい多くの人たちは、インドの精神の聖地ともいわれるゴア地方まで行って、野外でテクノ・イベントを開催した。インドの民族衣装をまとって踊るそのスタイルが“カッコいい”と評価され、ヨーロッパ各国、アメリカ、日本のファッションモデルたちの間では、4~5年前から、かなりのブームになっていた。それが、今年に入り、マスコミを通じて、ファッション誌などで一挙に掲載され、一気に民族品のアクセサリーをつけたり、衣装を着ることが大流行となっている。
「ぐらするーつ」には、そこで売っているアクセサリーや衣装などが、どのような人が、どのようなところで、どのようにしてつくっているかがわかるように解説がしてあったり、写真が飾られたりしている。
多くの若者たちは商品を手にするとき、同時にその写真をのぞき込んだり、解説に目をやったりする。
「ネパールやタイの森のなかで、とても裕福には見えない、経済的には貧しい人たちがこの商品を家族で一生懸命つくっている。この商品を買えば、この人たちの生活も少しは楽になるかもしれない。なんといっても、これ、“カワいい”し!」と思うことだろう。
「ぐらするーつ」渋谷店は、「東急ハンズ」の前の裏通りにあり、そこはレコード店が5~6軒立ち並ぶ、若者のレコードショッピング・ストリートにある。今の若者の大半はCDを聴いていると思っている大人の方々が多いと思うが、実は、“カッコいい”と言われている若者の大半は、昔ながらのビニール盤のレコードを買っている。ヨーロッパやアメリカなどの海外のダンスミュージックを、日本で輸入盤を買うためには、レコードを買わなければならない。
そのレコードを入れるのに、ちょうどいい大きさの麻のバッグが「ぐらするーつ」では大ヒットしている。「ぐらするーつ」がたまたま、レコードショッピング・ストリートのなかにあったために生まれたヒットである。
その麻のバッグは常に在庫切れ状態が続いているほど、大人気だという。
こうして、天然素材のバッグや衣装、アクセサリーなどを何万人、何十万人もの若者たちが買うようになっている。これがもし、天然素材ではなく、プラスチックなどの化学製品だったらどうか。何年かして、不要となり、ごみとなったとき、焼却炉で燃やされるとき、もし、“民族系”なら、何の問題もなく、灰になるだろう。なぜなら、アジアで小規模農場で無農薬の草木を使ってつくられた商品なのだから、有害なはずはない。しかし、今までのように、プラスチックなどの化学製品が大量に廃棄された場合には、いろいろな有害物質が発生する可能性が高い。さらに当然だが、化学製品を製造する際には、大量の産業廃棄物も発生する。
「ぐらするーつ」では、お客である若者の8割以上が包装を断るという。やはり、“民族系”に興味のある若者たちは、環境に対する意識が高いようだ。また、そのような“民族系”の若者が“カッコいい”とされ、そのような“民族系”のライフスタイルが“カッコいい”とされつつある。
そのうち、“”民族系の若者の環境に対する意識はどんどん高くなり、“民族系”ではない大人たちの意識はどんどん取り残されていくかもしれない。従来の廃棄物問題だけに取り組んできた大人たちより、“民族系”の自然を大事にする、途上国の人たちの気持ちがわかる、環境問題を身に持って感じている若者たちのほうが、根本的に、かつ的確に、廃棄物問題を解決する手段を思いつき、実行するかもしれない。

4.廃棄物問題意識の国際基準について

筆者は、廃棄物関連の国際会議やシンポジウムに参加する機会がよくあるが、そのなかで、ヨーロッパ各国やアメリカ、タイやネパール、モロッコなどの世界各国から来日した、その国の廃棄物の専門家たちは、専門的な廃棄物の本題に入る前に、なぜ、廃棄物の問題に取り組まなければならないのかということを充分に話す。
その内容は、発展途上国の資源の摂取を最小限にするために、国内で発生する廃棄物を再び資源として活用しなければならないといったことや、なぜ、発展途上国の資源の摂取を最小限にしなければならないのかというと、森林伐採や地球温暖化の防止という問題もあるが、何より、「南北平等」を達成しなければならない、先進国と途上国の不平等をなくすため、地球に住む人間がみな、平等であるために、廃棄物問題には真剣に取り組まなければならない、ということが大半であり、このような話を必ずといっていいほどする。
それに比べ、日本の専門家の先生方のほとんどは、大量生産・大量廃棄に伴う廃棄物量の増大により、最終処分場の確保が困難になり、その延命のために廃棄物問題には早急に対処しなければならない、という話をすることが大半である。
同じ廃棄物問題に取り組むにしても、両者には大きな違いがあることが感じられる。どうも、日本だけが他の国々から孤立しているように思えてならない。このままの意識でいくと、日本は廃棄物問題でさえも、国際的な調和が難しくなるのではないか。
確かに、処分場の延命も大事だが、それが最終目的になってしまっている日本と、人類平等が最終目的である世界各国とでは、根本的に進む方向が変わってしまうのではないか。
現に、「ぐらするーつ」は、世界に影響を及ぼす有名ブランド「エルメス」から評価され、そのことをきっかけに世界から注目されようとしている。「ぐらするーつ」のような、途上国の人たちの経済的自立を支援する草の根貿易を実践するスタンスが、国際間で議論されているところの環境問題の基準であり、廃棄物問題の基準ではないだろうか。日本で評価される廃棄物問題の基準とは大きく異なっているようだ。
「ぐらするーつ」のような、途上国の人たちの経済的自立を支援するような草の根貿易商品を扱うお店は、イギリスやドイツには800店以上あるという。日本には、まだ、「ぐらするーつ」1店だけだ。
「ぐらするーつ」のように、その商品をつくっている人の顔が見え、若者のライフスタイルのなかに溶け込み、肩の力を抜いて、自然に国際協力でき(地球に住む人たちがみな、平等であるために)、しかも廃棄物・環境問題にも貢献できるようなお店が増えれば、若者の意識も、草の根的に向上していくに違いない。
“超民族”が南北問題、平和問題、そして環境問題、廃棄物問題を少しでも解消する一つのキーワードになろうとしている。
今日も、「ぐらするーつ」では若者たちが、草木染めの布などを見て叫んでいる。
「これって、超民族!」