第6回
先駆者
~今、世界で最も優れた環境への取り組みをして、若者の意識を高める「ザ・ボディ・ショップ」の理念~


若者たちの間で圧倒的な人気を誇る“オシャレ”で、“カワいい”化粧品店「ザ・ボディ・ショップ」。
今、世界で最も優れた環境への取り組みをしていると評価される「ザ・ボディ・ショップ」の、「人権」「動物保護」「環境」の3つの理念が、全世界の若者たちに影響を与えている。
日本でも最近、100店舗をオープンさせ、「ザ・ボディ・ショップ」の3つの理念は日本全国の若者たちにも浸透しようとしている。 
「リサイクルの文化論」、第6回の今回は、その「ザ・ボディ・ショップ」の取り組みをみてみることにする。

1.理念もなしに得た利益は無意味である

「今、世界中で最も優れた環境報告書をつくり、最も優れた活動をしている“先駆者”は『ザ・ボディ・ショップ』だ」。
国連環境計画(UNEP)のIndustry and environment所長のジャックリン・アロワジ氏は、そう公言した。去る1997年6月6日、東京の国連大学会議場で環境庁主催の「国際シンポジウム環境アクションプラン大賞~環境報告書の役割~」の講演の中でだった。
UNEPは、1996年11月、企業の環境報告書を対象に行なった調査の報告書「エンゲージング・ステイクホルダー(関係者を活動に巻き込むこと)」を公表し、「ザ・ボディ・ショップ」の社会・環境監査報告書「バリューズ・レポート」が、世界最高水準の“先駆者” だと評価した。
「バリューズ・レポート」は、環境監査報告書、社会監査報告書、動物愛護報告書の3冊からなり、計160ページを超える報告書。
「ザ・ボディ・ショップ」の創業者で、チーフ・エグゼクティブのアニー・ロディック氏は、「“先駆者”と呼ばれ、非常に嬉しく思っています。企業は、仕入先から地域コミュニティ、お客さま、株主、従業員に対して責任がある。というのが私どもの信念です」と語った。
「ザ・ボディ・ショップ」は1976年、アニー・ロディック氏が1号店を英国のブライトンで、女性、男性、子ども向けスキン・ケア製品、メイクケア製品を販売する、いわゆる、化粧品店としてオープンした。
広告をいっさい行なわないなどの経営方針とフランチャイズ方式で世界中に店舗を広げ、現在、47カ国に1,500店を出店。
「企業は、環境保護など、社会的な責任とビジネスを両立させるべきだ」という彼女の経営方針は、世界中で共感を呼び、1985年に「ビジネス・ウーマン・オブ・ザ・イヤー」を、1988年には「大英帝国勲章」を、1989年には「国際環境賞global500」を受賞した。
「ザ・ボディ・ショップ」は「人権を尊重する」「動物を大切にする」「環境に責任をもつ」という3つの理念を明確に打ち出し、それらに積極的に取り組んでいる。
「人権を尊重する」ために、経済的に困窮しているコミュニティ(主に途上国など)を支援し、公平な実行可能な取引関係をつくり、彼らが自らの手で自立した経済を営むことができるようにしている。 
「動物を大切にする」ために、化粧品業界で行なわれている動物実験をしない製品づくりをしており、動物実験の禁止を求めてキャンペーンを世界中で展開、かわりとなる代替テストを採用し、さらなる開発を支援している。「ザ・ボディ・ショップ」オリジナルのクマやクジラの形をした石けんなどの商品は、購入した人がそれをメッセージとして受け取り、行動を起こすきっかけづくりとして役立っている。
「環境に責任をもつ」ために、アニータ・ロディック氏は、「化粧品業界の主な副産物は包装と廃棄物です、『ザ・ボディ・ショップ』はこれに逆行しようとしています」と語っている。
化粧品業界は他の小売業界と比べても包装が過剰で、高価な製品ほど、幾重にも包装してあり、製品の価値が高いほど捨てるものが多い。過剰包装することで、製品を高級そうに見せ、消費者の注意を引き、その製品が欲しいと思い込ませる。
「ザ・ボディ・ショップ」では、包装を必要最小限にとどめている。容器の材質が中身の製品に合って軽量で壊れない、容器は中身を入れた時から空になるまで使用でき繰り返し詰め替えを行なうのに耐えられるだけ充分に頑丈、包装は製品の汚染防止に役立つもの、などのことを考えた結果、「ザ・ボディ・ショップ」では、ほとんどすべての商品をプラスチックの容器に入れて販売している。
プラスチックの廃棄物の量を減らすには、プラスチックを再利用したり、詰め替えを行なうことが最善の方法という考えから、「ザ・ボディ・ショップ」では、容器の詰め替えサービスと容器の回収を行なっている。空になったプラスチック容器の大半は、「ザ・ボディ・ショップ」のどの店舗でも、詰め替えサービスを受けることができ、「容器には、もともと入っていた製品しか詰め替えできません。したがって、ラベルが判読でき、乾燥した状態でお持ちください」と呼びかけている。
最近、英国の本社では、プラスチック粉砕機と射出生型機を導入した。これらを利用して、アクセサリーや雑貨などの製品の7品を再生プラスチックでつくっている。米国では、ウェーク・フォレストの本部の家具をつくるために再生プラスチックを使用、イタリアでは、再生プラスチックを使って香りのあるプラスチック・ディスク(小さな円板)をつくり、芳香剤として売られ、高い人気を得ている。
英国の本社では、1993年、欧州環境閣僚理事会によって承認されたEUの環境管理・監査条例の枠組みに基づいて、環境管理システムを設け、以来、毎年、環境監査を行なっている。この条例に基づいて、ウォーターズミード本社敷地内の活動の環境報告書を公表している。
その報告書の3つの理念は、
①ウォーターズミード敷地内における本社の現在のエネルギー効率は、2年前と比べて約30%、改善している。
②英国店舗の現在のエネルギー効率は、2年前と比べて10%、改善している。
③この2年間にバルク製品の生産高は57%増えたが、ウォーターズミードの廃水処理施設から公共の下水に排出される有機物は2年前よりも33%、減少した。
というものである。
廃棄物問題を、処分場の延命や自国の環境問題だけとして捉えるのではなく、途上国の人たちの人権、平等の権利、さらには動物保護というスタンスでの環境問題として捉える「ザ・ボディ・ショップ」の理念は、全世界のあらゆる方面から、その見本として注目されており、一歩すすんだ“先駆者”として認知されている。

2.“先駆者”としての役割を果たす日本の「ザ・ボディ・ショップ」

さて、今までは、「ザ・ボディ・ショップ」の世界での動き、特に、英国本社での取り組みについてみてきたが、日本の「ザ・ボディ・ショップ」の取り組みはどうだろうか。
「ザ・ボディ・ショップ」はフランチャイズ方式をとっており、日本の経営母体は株式会社イオンフォレストという会社。1990年に東京の表参道に第1号店をオープンさせ、現在、全国に100店舗をかまえている。
日本の「ザ・ボディ・ショップ」も「人権」「動物保護」「環境」の3つの理念に基づいて取り組んでいる。特に、ごみ問題に関しては、積極的に行動している。
日本の「ザ・ボディ・ショップ」も世界の「ザ・ボディ・ショップ」同様、詰め替えサービスを行なっている。空容器を持っていけば、割引価格で中身を詰めてくれる。しかし、これは今のところ、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、ボディシャンプーのみ。
この“詰め替え”という行為を、日本で行なっている店はそれまでなかった。なぜなら、“詰め替え”というのは、“製造行為”であり、製造業者が製造工場などで行なうことが認められているだけで、「ザ・ボディ・ショップ」のような販売業者は行なうことを認められていなかったのである。このことを管轄している厚生省の薬務局に木全ミツ社長は2年半、通い続け、“詰め替え”の環境への意義を語り続け、ようやく許可がおりた。このことによって、日本の「ザ・ボディ・ショップ」も世界の「ザ・ボディ・ショップ」同様、“先駆者”としての役割を果たしたのである。
その結果、1996年度の詰め替え利用件数は31,299件、販売数の3%となった。
また、販売しているすべての商品の空容器も回収している。1996年度の容器回収数は123,084個、販売数の1.7%だった。空容器を持っていくと、メンバーズ・カードにスタンプを押してくれ、スタンプがたまるといろいろなグッズがもらえる。
その集まった空容器は当初、回収業者に引き取ってもらう予定だったが、1t単位でないと引き取ってもらえず、先日までの6年間、倉庫に積んであったという。
「ザ・ボディ・ショップ」が用いている商品の容器の素材はHDPEという素材で、ヨーロッパなどでは比較的多く使われている素材だか、日本ではほとんど使われておらず、唯一「タッパーウェア」のふたの材料として使われているぐらいで、再生の用途もルートもなかった。
そこで、「ザ・ボディ・ショップ」では、東京・北区にある再資源業者・株式会社菊池商店に相談、独自のルート・技術で、フラワーポットに再生することになった。
6年間、倉庫に積まれた数十万個の空容器は菊池商店に運ばれ、粉砕、洗浄され、ラベルをはがし、水中で比重によりプラスチックと紙を選別、脱水、乾燥して、できたペレットを溶かし、金型に高速・高圧充填し、冷却して、フラワーポットが完成した。
初回は4万個つくり、6月1日から29日までの1カ月間、日本の全店で開催したキャンペーン「NO TIME TO WASTE(もう、ごみはいらない!)」の一環として行なわれた「ゴミ問題アンケート」に答えてくれた人に、プレゼントした。このフラワーポットは、「ザ・ボディ・ショップ」のマークとロゴが立体的に押されていて、それだけでプレミア品として付加価値がつきそうな“オシャレ”なものに仕上がった。

3.店舗に一人、エコアドバイザー

「ザ・ボディ・ショップ」では各店舗にエコアドバイザーと呼ばれる社員を置き、環境への取り組みを徹底しているという。
そのエコアドバイザーというシステムについて、大和田順子コミュニケーション部長にお話を伺った。

 「ザ・ボディ・ショップ」では、各店舗に一人、エコアドバイザーになってもらっています。今、日本全国に100店舗ありますので、100人のエコアドバイザーがいることになります。
そのエコアドバイザーの人たち向けにワークショップを行なっているのですが、全国で3カ所、1回につき20人ぐらいの規模で行います。ロールプレイングゲームやシミュレーションゲームなど、いろいろな環境の取り組みについてのプログラムを実施します。
その中でもユニークなのが、“事前の課題”として、ごみ問題について調べるというものです。みんな、それぞれ各地域の自治体に問い合わせて、ごみ処理について聞くのですが、各自治体によって取り組みがそれぞれ違います。それを発表し合うと、うちの自治体ではこんなことをやっているけど、あそこの自治体ではこんなふうにしてごみを集めているんだとか、いろいろな気づきがあるわけです。みんな、それぞれ、たいへんな思いをして、この“事前の課題”に取り組んできますから、他の人の課題も真剣に聞くんですね。
そうすると、このワークショップが終わる頃には、みんな立派なエコアドバイザーです。本当に意識が全く変わりますね。
こうして、1店舗に1人でも、こういう問題に詳しい人がいると、その人がお店の人たちに話を伝えるし、そして、何より、姿勢が伝わるんですね。そして、また、お店の人の姿勢はお客さんに伝わりますから、地道ですけど、こんなことが「環境に責任を持つ」第一歩だと思っています。

4.表参道のアクションステーション

6月2日からの「NO TIME TO WASTE(もう、ごみはいらない!)」キャンペーンの期間中、表参道店の2階にあるアクションステーションでは、ごみ問題に関するさまざまな展示が行なわれた。
容器包装リサイクル法の説明、Reduce(ごみを減らす)・Reuse(ごみを再利用する)・Recycle(ごみを再生する)といったごみ問題の基本から、「ザ・ボディ・ショップ」の詰め替えサービス、空容器を回収してフラワーポットに再生されるまでのフロー図など、初心者でもわかりやすく、カラフルな色を使った“オシャレ”で“カワいい”パネルで紹介された。
次のような、さらに一歩踏み込んだパネルまで展示された。
“リサイクルはゴミを減らす最善策ではありません!”
リサイクルの問題点は、
①環境への負荷(運搬中の排気ガス、製造段階の汚水)
②エネルギーコスト(分別、回収、再生)
③回収品の受け皿(再生原料の使い道の開発、再生品の積極的購入)
“リサイクルよりも先にゴミを出さない努力をしよう!”
このアクションステーションは店舗の2階にあるにもかかわらず、平日で平均10人以上、土日で30人以上が訪れるという。やはり、若者の街・表参道ということもあり、訪れるのは大学生、しかも女性が多く、カップルも多い。中には2時間ぐらい担当の店員さんと話し込む人もいるという。
中央には大きなグリーンの“カワいい”テーブルと多くのチェアーが置かれ、気軽に座って前述した「ゴミ問題アンケート」に答えてもらう。表参道店では、1カ月の間に214枚を回収した。全国100店舗で3万枚の回収を予定している。これは若者のごみ問題に関する意識調査の中でも、大規模なものなので、集計結果が出るのが楽しみだ。
筆者がこのアクションステーションを訪れたとき、ちょうど、病院で栄養士をしているという澤井満美さんがアンケートに答えていたので、彼女にお話を聞いてみた。

私も、ごみの問題にはとっても関心があるのですが、今、こうやって改めて、いろいろなパネルを見てみると、まだまだ簡単なことでも守れていないということを再確認しました。
でも、私も、自分なりにいろいろ気をつけています。必要でないものは買わないし、今日のこれのような大きいバッグや大きいリュックをいつも持っているし、ビニール袋は断るし、資源ごみはきちんと分けています。いらなくなった洋服や小物などはフリーマーケットに出店して売っちゃいます。

5.若者たちが受け止める“オシャレ”で“カワいい”“先駆者”精神

「ザ・ボディ・ショップ」はこの20年間、常に“先駆者”であり続けた。全世界で最も優れた環境報告書をつくったことも“先駆的”、ロンドンから汽車で1時間のブライトンの小さな化粧品店がフランチャイズ方式で全世界に1,500店を出店したのも“先駆的”、はじめは容器の数が少なく、お客さんの持ってきた容器に中身を詰め替えることしかできなかったことも結果的に最先端のリサイクルシステムとなったことも“先駆的”、途上国の女性たちがココアバターやパイナップルの皮を顔につけて、なめらかな肌になっていることに気づき、それをヒントにして商品をつくったことが、結局は途上国の人たちとの人権問題(公正な貿易)、化学薬品を極力使わないといった環境問題に貢献することになったことも“先駆的”であった。
今でも1年のうちの5カ月は世界中を旅しているという創業者アニータ・ロディック氏の“先駆者”精神は、世界47カ国の「ザ・ボディ・ショップ」から、全世界に発信されている。
日本の「ザ・ボディ・ショップ」も厚生省に詰め替えサービスを認めさせ、その“先駆者”の役割を果たしている。
そして、何より、「ザ・ボディ・ショップ」を訪れるお客さんのほとんどは、まるで外国に来たような“カワいい”店内に何かを感じるはずだ。まず、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、ボディシャンプー、石けん類、そして、ほとんどの化粧品類もすべて、“裸売り”されていて、余計な箱などにはいっさい入っていない。棚に整然と積まれているだけである。その店内は、まるでドイツのスーパーマーケットにいるようである。
さらに、商品を買ったとしても、決してビニール袋などには入れてくれない。まず、店員さんが「袋はご入り用ですか」とたずね、どうしても必要というお客さんには古紙でできた再生紙の紙袋に商品を入れてくれる。店内のいたるところに、環境や動物保護に関する説明がある。2カ月に一度、17万部発行される「ザ・ボディ・ショップNEWS」という19ページの冊子には、プラスチックや古紙問題などが詳しく掲載されていて、ほとんど関心のない人でも、その“オシャレ”なつくりのため、少しは頭に残るはずである。
日本の若者は環境問題、ごみ問題に対して意識が低い、と言う人がいる。どうすれば、若者たちにもっと認識してもらえるか、と言う人もいる。
確かに、欧米の若者たちに比べたら意識は低いかもしれない。では、どうすればいいのかわからない、と思うところに問題があるのだと思う。
そのような問題にほとんど関心のない若者でも「ザ・ボディ・ショップ」に入れば、“裸売り”の石けんに、空容器の回収箱に、動物保護の説明に、少しは何かを感じるだろう。なぜなら、「ザ・ボディ・ショップ」が“オシャレ”で、“カワいい”という価値観で若者たちに受け入れられているからだ。いくら、すばらしい取り組みをしているお店であっても、“ダサくて”“カッコ悪かったら”、誰も見向きもしないだろう。“オシャレ”で“カワいい”
「ザ・ボディ・ショップ」が取り組む環境問題は“オシャレ”で“カワいい”のである。
実際、筆者のまわりにも「ザ・ボディ・ショップ」に行くようになって環境問題や動物実験のことに関心を持つようになった若者たちは非常に多い。
現在はこれだけの情報社会である。若者たちの関心は“カッコいい”、“カワいい”ものにしか向けられない。それらの情報を得るだけで手いっぱいなのだ。
“オシャレ”で“カワいい”環境問題を若者たちに提案する、「ザ・ボディ・ショップ」のこの取り組みも、日本では“先駆的” である気がする。
最後に余談ではあるが、筆者は5年ぐらい前、代々木公園のフリーマーケットで、たまたま、「ザ・ボディ・ショップ」のポスターが売れられていることに気づき、それを「カワいい!」と思って購入したことがある。お店の人の話によると、そのポスターは最近までお店にはられていたもので、捨てるのがもったいないから、ここで売っていると言う。商売根性と言えばそれまでだが、「ザ・ボディ・ショップ」がやると、それは環境問題に貢献している“オシャレ”なことになるのだ。実際、筆者もそう受け止めた。
その時に買った1mを超える、ネイティブ・アメリカンの写真のポスターと、ローズヒップの油絵のポスターは、今でも、筆者の部屋の壁にはってある。
これはお店で買おうとしても買うことのできない“オシャレ”で大事なプレミア品である。使い終われば単なる紙ごみとなるポスターも、“オシャレ”で“カワいい” 「ザ・ボディ・ショップ」のものとなると、それはプレミア品に変わるのである。
世界で最も環境に取り組む優れた“先駆者”である「ザ・ボディ・ショップ」のその姿勢は、今日も「ザ・ボディ・ショップ」を訪れる日本の若者たちにとって、「人権」「動物保護」「環境」といった問題に関心を持つきっかけとなっているにちがいない。
「ザ・ボディ・ショップ」はこれからもずっと“先駆者”であり続けるにちがいない。