みんながやっていることは正しい⁉
「リサイクルして環境を守ろう! そして地球を救おう!」
このような素晴らしい意気込みで、少しでも多くの空き缶や牛乳パック、古新聞などを回収しようと思っている方も多いと思います。しかし、もし、
「リサイクルは、みんながやるだけ環境によくないかもしれない」
と言われたら、どのような気がするでしょうか。
「何、言ってるんだ、そんなわけないじゃないか。われわれが生きていくためには、物が必要だ。さまざまな製品、経済システムが必要だ。そのために資源を使っている。その資源から缶やプラスチック、紙などがつくられて、われわれの生活の基盤になっている。資源を使えば、当然、自然環境は犠牲になる。しかし、その資源をわたしたちの住んでいる社会の中で循環させたらどうだろう。リサイクルさせたらどうだろう。そうすれば、資源を使わなくて済むじゃないか。資源を使わなければ、自然環境は破壊されずに済む。地球を守るために、地球を救うためにリサイクルの輪をどんどん広げていくんだ!
それにリサイクルは、今やみんながやっている。みんながやっているということは正しいということだ。間違ったことは、みんな、やらないからね」
おそらく、このような答えが返ってくるでしょう(実際、僕もそう考えていました)。
たしかにリサイクルは、今、多くの人がやっています。この人のように意気込みがすごくはなくても、無意識にやっている人も多いはずです。駅のホームや売店などのゴミ箱は資源ゴミ(缶、びん)、紙ゴミなどに分かれています。自動販売機の横に置かれている、缶を捨てるための丸い穴の空いたゴミ箱もそうです。また最近では、市役所や区役所などの自治体も資源回収を始めています。資源回収とは、空き缶や空きびん、古新聞などを分別して回収し、リサイクルするというものです。
回覧板などで、
「来月から、わたしたちの市も資源ゴミ回収を始めます。空き缶はスチール缶、アルミ缶の2種類に、空きびんは黒い色と透明、そして、その他の種類に分けて出してください。古新聞や古雑誌も回収しますので、よろしくお願いします。
毎月1回、各地区ごとに曜日を決めて、回収車がまわります。所定のカゴの中に入れて出してください。
わたしたちのかけがえのない地球を守るため、環境を守るために、ぜひ、リサイクルにご協力ください」
とまわってくるところも多いと思います。
すると、「やっと、うちの市もリサイクルに取り組んでくれたのね。これで地球にやさしいこと、環境にいいことができるわ」
と、大喜びする人もいるでしょう。
「テレビで毎日のように環境問題を取り上げているし、何かしなくちゃいけないな、と思っていたところなんだ。ちょうど、よかった。頑張ってリサイクルをやろう」
と言う人もいるでしょう。これで多くの人はリサイクルに参加することになります。
「環境なんか、どうでもいい」
と思っている人も参加せざるを得なくなります。多くの人は無意識にリサイクルをしています。
「近所の目があるから仕方なく」
「ちゃんとやらないと、大家さんにおこられるから」
と言う人もいます。理由はどうあれ、リサイクルをしているということに、かわりはありません。
ところで、みなさんが分けて回収した空き缶や古新聞などは、本当にリサイクルされているのでしょうか? こんな疑問を持ったことはありませんか。
リサイクルして、空き缶は何になるのだろう? 古新聞は、何に再生されるのだろう?
僕はリサイクルの話を聞くたびに、疑問に思っていました。
そして、調べたのです。
その結果、ほとんどの空き缶は再び缶になることはない、ほとんどの古新聞は再び新聞になることはないということがわかったのです。
スチール缶は、ビルを建てるときに骨組みとして使われる「丸棒」、アルミ缶はアルミサッシや自動車の部品、古新聞は段ボールとして再生されるのです。一部、アルミ缶からアルミ缶に、古新聞から新聞紙に再生されることもありますが、ほとんどは、別の製品に生まれ変わるのです。
牛乳パックの例と同じように、ここでも、
「どんどんリサイクルするために、どんどん缶ジュースを買おう」
ということになっていないでしょうか。
「みんながやっているから正しい」
と思うのは、とても危険なことです。
よいと思ってやったことも、実は、それがよくない結果を引き起こしている場合もあるのです。これを僕は、“浦島太郎の原理”と名付けています。
竜宮城から帰ってきた浦島太郎は、村の様子がすっかり変わっていて、知っている人がひとりもいないのに落胆して、「寂しくなったら開けるように」と言われて渡された玉手箱を開け、一瞬のうちに白髪のおじいさんになってしまいましたが、これがもし、亀を助けたのが太郎ひとりではなく、何人もいたら、村人全員で助けていたらどうなっていたでしょう。村人全員が竜宮城へ行って地上に帰ってきたとしたら、何十年もの歳月が過ぎていたことに果たして気がつくでしょうか。自分のまわり全員が同じことをしていたら、自分を含めた全員がそうであったら、時間の流れのおかしさになかなか気がつかないのではないでしょうか。このような例は、たくさんあります。最近のリサイクルも、そんな方向で動いているのではないでしょうか。
アルミ缶はアルミ缶にはなっていない⁉
「どんどんリサイクルするために、どんどん缶ジュースを買おう!」
というのは、おかしな発想です。
ジュースが入っているアルミ缶はボーキサイトからつくられています。ボーキサイトは、主に、アフリカや中南米、オーストラリア、東南アジアから採掘されます。
ボーキサイトは鉱物資源で地中にありますから、それを掘るためには、表面の山を切り崩して、木を伐採しなければなりません。自然を破壊しなければなりません。酸素を供給してくれている木を伐採して、私たちが生きていく上で必要な自然体系を壊さなければならないのです。アルミ缶のジュースを買った時点で、環境破壊の手助けをしているといえるかもしれません。
東京・渋谷区にある「グリーン・ルネッサンス」というリサイクル団体は、渋谷区を中心にアルミ缶の回収を行い、その収益で、アルミの主な原産地であるアフリカに樹木を植えています。アルミ缶は1個約1円で、工場が引き取ってくれるそうです。アフリカでは苗木1本が日本円にして80円で買えるそうなので、アルミ缶を80個回収すれば、苗木を1本植えることができる計算になります。このわかりやすいコンセプトのため、1991年に発足したこの団体にも、今では1,000人を超える会員がいます。
この図は、そのグリーン・ルネッサンスが独自で調査した渋谷区内の缶飲料自動販売機の数です。ソフトドリンクの自動販売機は2,162台、アルコールの自動販売機は184台、両方の混合が45台で、合計すると、なんと2,391台。渋谷区の面積は15.08km2なので、約80m弱四方に1台の割合で自動販売機があることになります。この数字は屋外にあるものだけなので、屋内にあるものも合わせると、約2倍はあると思われますから、4,000台以上、40m四方に1台の割合で自動販売機がある計算になります。しかも、この計算は、広大な代々木公園や明治神宮も含んでの数字です。それだけ大量の缶を、私たちは消費しているのです。
それでも、回収されたアルミ缶が100%アルミ缶に再生され、アルミの輸入量が減っていれば、アルミ缶のリサイクルは環境を守っているということになるのですが、そうはなっていないのです。逆に、アルミの輸入量は年々増え続け、リサイクルされたアルミ缶は、自動車のホイール部分や、アルミサッシなどの建築資材、化学薬品などに使われています。
三菱系の新菱アルミ回収センターなど、回収したアルミ缶から、再び、アルミ缶をつくっているところもありますが、残念ながら、ほんの一部に限られています。それというのも、日本製のアルミ缶は欧米のものに比べて格段に品質が良く、その薄く滑らかな表面に、それぞれ意匠を凝らした美しいデザインが印刷されていますが、リサイクルには、逆に、その高精度が邪魔をしているのです。しかし、日本軽金属をはじめ、多くのアルミメーカーでもアルミ缶からアルミ缶にリサイクルさせる計画は進んでいます。アルミ缶の上ブタの部分と本体の部分の材質の違いや、パッケージの印刷における缶表面の滑らかさなどの問題もあり、アルミ缶を再びアルミ缶にリサイクルさせるのは困難だったのですが、技術的にクリアすることができ、今後は徐々に、アルミ缶はアルミ缶としてリサイクルされていくようです。
しかし、現状では、そうはなっていないのが事実です。最近、このアルミ缶さえも多く集まりすぎてしまって、相場価格が低迷しています。アルミの値段が下がっているのです。なぜ、値段が下がるのでしょうか。そこを考えてみましょう。
リサイクルするということは新しい商品に生まれかわるということです。生まれかわらなければ、リサイクルとはいえません。新しい商品をつくるには、その商品が売れることが条件になります。売れなければ、その商品をつくる量を減らさなければなりません。アルミの場合だったら、自動車の部品になるので、自動車が売れなくなれば、その部品の材料となるアルミは必要ではなくなります。建設業が不況になれば、建築資材も結局は、必要でなくなってしまうのです。
自動車の部品をつくる工場は、自治体や回収業者さんからアルミ缶のスクラップを買っていますが、自動車が売れなくなれば、買う必要はなくなります。買ったとしても、安い値段でしか引き取らなくなります。
そうすると、困ってしまうのは回収業者さんです。アルミを回収して、それを再生工場に売って生活をしていたのが、工場が引き取らない、また、引き取ってくれたとしても、とても安い値段では生活をしていくことができなくなってしまいます。
一方、自治体の場合、アルミ缶の回収ルートを作り、それなりのコストをかけていますが、アルミ缶を工場に売って儲けるのが目的ではなく、あくまでも、回収した缶を再生させることが仕事なのです。もし、赤字が出ることがあるとすれば、私たちが支払っている税金を充てればいいのです。
それに比べて、回収業者さんのほうは死活問題です。自治体がリサイクルに取り組む場合、税金が使われますが、回収業者さんの場合は、それ自体で完全に独立した経済ルートができています。回収業者さんが回収して、それを工場に売る。私たちは、何も損をしていません。しかし、自治体がやれば、やるだけ自治体の予算を使ってしまうことになるのです。
今、自治体ではリサイクルの予算を多く取るほど、“進んでいる”とみられる傾向があります。たしかに、積極的にリサイクルについて考え、取り組むことは必要ですが、それが目的になってしまっては困ります。リサイクルは、環境を破壊しない、私たちの健康を守るための手段にすぎないのです。このところをよく考えないと、アルミ缶のリサイクルを実践したとしても、他の環境が破壊されてしまうということになってしまいます。
回収業者さんは、リサイクルのパイオニア
今までは鉄くずや紙くずなどは、回収業者さんによって、ある程度はリサイクルされていました。特に、終戦直後の日本では、経済的基盤をつくるために、とにかく、鉄が必要でした。しかし、戦争でお金を使い果たしてしまった日本は、外国から鉄の原料である銑鉄を買うことは、なかなかできませんでした。そこで、国内にある鉄製品のスクラップを使わざるを得なかったのですが、たとえ、鉄が輸入できたとしても、製品をつくるときにはどうしても余った鉄が出ます。当時の日本にとっては、本当なら捨てられてしまうはずのこの余った鉄を回収して、もう一度、再生工場に売って鉄として製品にするシステムが必要でした。
このような役目を、回収業者さんは引き受けていたのです。産業廃棄物を再生させるのが、回収業者さんの役目だったのです。その役目は日本が高度経済成長をしていく上で、その基盤を支える、とても重要なものでした。回収業者さんがいなかったら、今の日本の経済的繁栄はなかっただろうとまでいわれています。
紙やアルミなど、さまざまなものも集められていましたが、やはり、この当時は、鉄が主力でした。
ところが、外国から輸入したヴァージン材料を、高温の高炉で溶かしてつくられるものに比べ、スクラップの鉄を電気で溶かす電炉でつくられる鉄はどうしても質が劣り、ビルを建てるための骨組みである“丸棒”などにしか、再生することができません。しかし、戦後の日本では、ビルの建設ラッシュが起こり、その骨組みとなる“丸棒”が大量に必要だったのです。そのため、“丸棒”の原料であるスクラップが必要になり、回収業者さんの仕事が重要な役割を持つようになったのです。今でも、私たちが鉄をリサイクルすることのできる、最も身近な缶詰製品に使われているスチール缶は、当時でも貴重な再生資源の一つだったのです。
紙も同じです。
「毎度おなじみのチリ紙交換でございます」
が、お決まりだったチリ紙交換も、回収業者さんの代表の一つです。
戦後の日本に限らず、物の輸送はとても重要なものです。製品を輸送するときの梱包材は、かつては、木の箱が主流でしたが、重くてかさばるということで、軽くて持ち運びに便利な段ボールが戦後、使われるようになりました。段ボールは軽くて、ある程度、雨にも強く、使わないときはたたんでおけるという利点があり、その利用度は増大する一方でした。
段ボールの材料のほとんどは、古紙です。チリ紙交換で集められた古紙が使われています。当時、段ボールの需要が多くあったので、古紙は高い値段で取り引きされ、相場も安定していました。古紙を回収して、再生工場に売ると儲かったのです。だから、昔はあれだけ多くのチリ紙交換屋さんがいたのです。
しかし、今ではめっきり、その声を聞くことも少なくなってしまいました。
円高が自然環境を破壊する!
回収業者さんの活躍の場が減ったのは、1986年から始まった円高が、主な原因といわれています。
戦後の日本の復興期が終わり、高度経済成長期を過ぎ、2次にわたるオイルショックの荒波も無事、切り抜けた日本は、いつの間にか世界で第2位の経済大国になっていました。貿易によって経済を支えてきた日本は、大量に輸出を行なっていましたが、その結果、ドル高と、貿易不均衡を招く日本の輸出に歯止めをかけるために取られた措置が「プラザ合意」でした。このプラザ合意により、円高ドル安が始まったのです。
それまで、240円で1ドルの商品を買っていたのが、150円で1ドルの商品を買えるようになりました。日本は海外のものを安く買えるようになったのです。輸入しやすくなったのです。しかし、逆に日本から海外へ輸出するときには、相手国に対する価格が高くなってしまったのです。輸出しにくくなってしまったわけです。
たしかに、1986年は円高不況といわれ、海外貿易をしていた企業をはじめ、多くの会社は不景気になりました。しかし、それを打破するための政策が、見事に成功しました。内需拡大です。貿易がダメなら、国内の消費活動を活発化させようというのです。内需拡大で最もウエイトが大きいのは、建設です。規模が大きく、大きな予算で大きな労働力を動員し、大きな消費を促すことができるからです。バブル景気の始まりです。内需拡大によるバブル景気によって、ビル建設用地の買収が“地上げ”として全国に蔓延し、地価の異常な高騰を招きました。また、余暇、レジャーの拡大がゴルフ場の需要を増やし、森林伐採、農薬散布などの環境破壊を促しました。
ビル建設といえば、鉄筋コンクリートが主流です。この鉄筋ビルが、最も自然環境を破壊しているということをご存知でしょうか。
ビル建設のためには、コンクリートを流し込む“型”、通称“コンパネ”と呼ばれるコンクリート・パネルという木の枠が必要です。この木の枠の溝の中に、コンクリートを流し込んでビルを造るのです。そのコンパネは、主に、東南アジアのボルネオ島から輸入される木材で作られます。世界木材輸出の54%が日本向けですが、その約3分の1がこのコンパネに使われているのです。しかも、それは自然の原生林が伐採されたものです。
コンパネは、1回使うとコンクリートが付着してしまうということで捨てられます。捨てられたあとは廃棄物として「火焼」されます。火焼するということは酸素を吸収し、炭素を放出するということです。二酸化炭素を吸収し、酸素を供給する木を伐採して酸素を減らした上に、さらにまた、火焼により酸素を減らしている…、このような悪循環に陥ってしまっているのです。
円高により、海外から日本に入ってくるものが安くなったので、東南アジアの原生林を伐採して輸入する木材も安く日本に入るようになったのです。それに内需拡大が加わって木材需要は急増し、森林伐採は猛烈に進んだのです。
また、OA機器の普及に伴い、紙の需要も急増しました。その紙も、再生紙であれば、国内で回収業者さんが回収してつくられるので問題はないのですが、円高のおかげで海外から輸入したパルプでつくった紙、いわゆる、ヴァージンパルプでつくった紙のほうが安くなってしまったため、そちらのほうが普及してしまったのです。今の社会は、すべて市場原理の経済システムで動いています。安いものが売れて、勝ち残るのです。この場合、ヴァージン原料の紙が勝者で、再生紙が敗者です。
再生紙が売れなくなった原因は、再生紙が高いのではなく、ヴァージン原料の紙が安くなってしまったからなのです。
再生紙が売れなくなると、再生紙をつくっていた工場は、回収業者さんが集めた古紙を買わなくなったり、買ったとしても、とても安い値段でしか取り引きしなくなってしまいました。1986年には、10kg当たり180円前後で取り引きされていた新聞古紙の価格が、翌年の1987年には、半値以下の70〜80円になってしまったのです。図1の古紙価格の推移にあるように、古紙の価格は、常に変化しています。特に、オイルショックになると紙の需要が増え、価格は暴騰します。1974年の第1次オイルショックのときには、
「石油がなくなると、トイレットペーパーがなくなる」
という噂が流れ、大パニックが起こりました。日本中の人たちがスーパーに何時間も並び、トイレットペーパーを買いだめしたのです。しかし、実際には、トイレットペーパーがなくなるということはありませんでした。みんながそう言っているのだからという、ここでも前述した“浦島太郎の原理”が思い出されます。その教訓を生かし、1979年の第2次オイルショックのときには、日本中は比較的冷静に、この事実を受け止めることができ、パニックにならずに済みました。
それにしても、円高が始まった1986年以降は、図1にもあるように、古紙の価格は低迷しています。この低迷が、現在では普通の状態になってしまっています。そのため、回収業者さんの多くは転業せざるを得なくなってしまいました。回収業者さんの数は、今では最盛期の3分の1にまで減ってしまったといわれています。
チリ紙交換屋さんがいないと損をする⁉
チリ紙交換をはじめとする古紙回収システムは日本独自のシステムとして、世界の中でも、とてもユニークな存在でした。そのユニークなシステムのおかげで、日本は図2のように古紙回収率で、そして、回収した古紙をどれだけ多く使っているかという古紙消費率でも世界で一位です。これは、段ボールの占める割合がとても多いのです。また、新聞紙や雑誌などにも多く再生されます。
それではここで、世界一の古紙率を支える回収システムと、その形態を見てみましょう。
表1は、家庭からの紙ゴミと回収システムの形態を、首都圏で実際にご商売をなさっている方々からヒアリングをして数字にまとめたものです。「平均回収量」はすべて新聞古紙に換算してあり、「回収コスト」は回収するときにかかる車の費用やチラシなどの直接費用のことで、人件費や間接的な厚生費などは除いてあります。「買入価格」も新聞古紙に換算してありますが、業者が各家庭や団体の方にお支払いする価格です。この回収コストと買入価格の2つを合わせたものが、業者の仕入れコストです。
1.チリ紙交換回収(流し、フリー回収)
2.チリ紙交換回収(チラシによるルート回収)
3.販売店回収
4.集団回収
5.自治体による回収
の5種類があります。
<チリ紙交換回収>
“流しとフリー回収”、“チラシによるルート回収”の、この2つのチリ紙交換回収システムは、場所と時間と回収品目を決めないで、各回収システムの穴埋めをする貴重な存在です。品質のチェックも、他のシステムと比べると徹底しています。
資源価格の範囲内で、コストからマージンまでまかなうのは、チリ紙交換回収だけです。しかし、自治体などからの何の助成もない現行価格での営業は困難で、その数は激減し、特に、2.のチラシをまいて定期的にルート回収していた業者は、今では皆無となってしまいました。
1.の流しの回収も、平日は主婦のパート出勤などで効率が悪く、土日曜に限られ、平日は段ボールや鉄くずなどの事業所回りが多くなっています。
チリ紙交換員は相場によって敏感に増減され、需給のバランスがとられています。他業種からのアルバイト、一時失業者、高齢者、身障者などのチリ紙交換予備軍の存在も、都市資源の回収に重要な働きをしていましたが、現在はほとんど動いていません。
マージンは1日当たり、流しが6,000〜7,000円、ルート回収が7,000〜8,000円です。
<販売店回収>
販売店回収とは、新聞販売店の顧客リストをもとに徹底したルート回収で、最も安定した新聞古紙の回収方法です。
新聞社間の競争や秘密保持などから特定業者に寡占化されやすく、また、特定の新聞だけの回収をするため、他の回収機構に与える影響はとても大きいといえます。なぜなら、他の回収方法で集まるメインの古紙も古新聞だからです。主力の古新聞を販売店に回収されてしまったら、回収業者さんは他に集めるものがなくなってしまいます。
第2章の牛乳パックの話の中で、以前、読売新聞が古新聞の回収を始めたことがあるということにも触れましたが、実はこのときも、そのことが、かなり大きな問題になったのです。その結果、チリ紙交換業界と読売新聞との間で、次のような申し合わせがなされました。
・お互いの職域を尊重すること
・機会均等を図り、地元業者を優先すること
・集団回収実施地区は避けること
・対象地区は一都六県にすること
・交換率をチリ紙交換業並みにすること
・販売店の直接回収はやめ、集荷業者と販売店が共同で回収すること
なお、販売店が袋や予告チラシなどの無料配布、場合によっては労働力や交換品の提供までしているところもあり、これを回収コストに換算すれば大変な金額になります。マージンは1日1万〜1万6,000円です。
<集団回収>
集団回収とは、各種資源を短時間に大量に回収できる、合理的な方法です。団体や地域のコミュニケーション、市民の環境問題などに対する意識向上、青少年育成などにも有意義ですが、品質面で、さまざまな異物の混入など問題が多いのも事実です。
労働力の提供など、団体の協力のほか、自治体からの助成金や、PR活動として多額の税金が使われていることを忘れてはいけません。表2は東京都三多摩地区で行なっている集団回収に対する補助の内容です。1kg当たり、だいたい3円から、高いところで10円くらいの補助金が出ているのがわかります。この補助金も、税金でまかなっているということになります。
こうした集団回収で、どのくらいの量の古紙が回収されているのか、1,000世帯くらいある、ある社宅の集団回収を対象に調査してみたところ、そこでは、約10tの古紙が毎月、集まっていました。ちなみに、この10tの古紙を集めて、業者の車に乗せ終わるまでには、延べ時間で69時間ほどかかっています。これを時給700円のパート代に換算してみると、4万8,300円になります。つまり、10tの古紙を回収するのに、5万円近いお金が、無料奉仕として団体の方々から提供されているのです。
<自治体による回収>
自治体による回収とは、各家庭で、ゴミと資源を完全に分別してゴミ・ステーションに出し、自治体が回収し、地元業者が一括して買い取り処理するもので、回収する価値のなくなってしまった“資源”の回収として、広がりつつある方法です。
ゴミ化したものを資源化する点で、多額の税金を使っても意義あるとはいえ、資源価格を回収可能な価格に修正し、民活によるリサイクルを推進するほうが、はるかに安価で効果的といえます。自治体がリサイクルに乗り出すと、古紙1t当たりの回収コストは4万円近くかかります。1kg当たりにすると40〜50円近くかかってしまうのです。1kg当たり7〜8円で売られる古紙が、自治体の手にかかると40〜50円の回収コストで回収しなければならなくなってしまうのです。
さて、それでは、現在1t当たり7,000〜8,000円で引き取られる新聞古紙を回収するのに、それぞれの回収システムによって、すべての経費、助成などを含めて、どのくらいの経費がかかるのでしょうか。
まず、チリ紙交換による回収は、業者さんのコストだけで済むので、1t当たり2,000〜3,000円です。これが新聞販売店回収になると、1万〜2万円かかります。集団回収もやはり、1万〜2万円以上かかってしまいます。これが自治体が直接担当すると、なんと、4万円以上もかかってしまうことになるのです。チリ紙交換と比べると、20倍近くもコストが跳ね上がってしまうということです。結局、チリ紙交換の業者さんが集めるのが、最も回収コストが安いのです。つまり、古紙がゴミ化すればするほど、回収コストは高いものについてしまうのです。
しかし、古紙回収の主流は、チリ紙交換屋さんから、集団回収や新聞販売店回収に移ってしまいました。
それでも回ってくるチリ紙交換屋さんもいますが、雨の日や風の強い日には回収に来ない場合が多いようです。理由については、いろいろあるようですが、ずばり本音をきくと、
「天気の悪い日まで働く気にはならない」からだそうです。
チリ紙交換屋さんには、拘束されることを好まない自由人が多いのは事実です。その他の理由として、雨の日は古紙が濡れて、“水分引き”という厄介な問題があり、家の人も、あまり外に出てきてくれないので仕事にならないという事情もあります。風の強い日も、古紙が風に飛ばされてしまうことを嫌って休む人が多いようです。
こんなふうに、チリ紙交換屋さんのやる気がなくなってしまったのはなぜでしょう。製紙工場の古紙購入価格が比較的低位安定型になり、チリ紙交換屋さんと製紙工場の流通のうえで中間に位置する問屋さんの仕入れ価格も必然的に低位とならざるを得ず、1日の回収量が1t前後で、収入が1万円そこそこでは、魅力のある商売とはいえません。最近では、割のいい仕事がたくさんあります。苦労してチリ紙交換をやろうという人が減って当然でしょう。ですが、もしこの傾向がひどくなって、チリ紙交換屋さんがまったく回って来なくなったらどうなるでしょう。
集団回収などが行なわれていない地域では、古紙を持っていってくれる人がいなくて、やむなく、紙ゴミとして捨ててしまうでしょうし、定期的な回収を逃してしまった場合は、次の機会まで待たなければなりません。
先ほど、製紙工場の古紙購入価格が比較的低位安定型の状況が続いているといいました。このことがチリ紙交換屋さんの意欲減退を招いているわけですが、なぜ、そうなのでしょう。答えは、製紙工場が古紙を原料として使う、そもそもの理由にあります。
脱墨処理など手間ひまをかけてでも、古紙を原料にしてきたのは、ずばり、古紙が安かったからです。日本の製紙業界は、森林資源も不十分、エネルギーコストも人件費も高いという、国際間の基礎的競争力の弱い中で生産を続けていかなければなりません。そのため、使っていた古紙が、集荷コストによるとはいえ、極端に高くなっては困るのです。国際競争力が落ちてしまいます。そうなれば、紙の輸入が増え、輸入に見合う分だけ、国内生産を減らさざるを得なくなるでしょう。そうした事態が進めば、古紙を原料として再利用する量も減る分、都市の紙ゴミが、また一段と増えることになるのです。
なぜ、古紙を輸入しているの⁉
これからはチリ紙交換などの回収業者さんを増やして、税金をコストとして使う自治体のリサイクルは控えたほうがよい、という提案をしてきましたが、少しでも多くの国内の古紙を回収して再利用しなければならない今でも、なんと、古紙が大量に輸入されているのです。なぜ、このような矛盾が起きるのでょう。
1991年の日本の古紙輸入量は図3のように約85万tで、過去最高でした。一方、日本からの古紙輸出量は約2,000tで、古紙輸出入のバランスは圧倒的に輸入超過となっています。同年の日本の総古紙消費量は1,518万tですから、古紙消費量に占める輸入古紙の割合は約5.6%です。輸入先は、アメリカが全体の92%を占めています。
古紙を輸入する理由は、2つあります。
まず1つめは、古紙価格の相場を安定させるためです。たくさん回収してしまうと、古紙が余ってしまうので、値段が下がってしまいます。逆に、少ししか集まらなければ、古紙は貴重となり、値段が上がります。今までは、古紙の回収量が増え相場が下がると、回収量を減らし輸入を増やして、そのバランスをとっていました。今では自治体をはじめ、各ボランティア団体などが、どんどん古紙を集めるので、どんどん相場が下がっています。
2つめの理由は、紙の再生品の代表である段ボールは、日本の古紙100%からつくられているのではないということです。日本では、アメリカの高級段ボール古紙を混ぜて、段ボールをつくっているのです。したがって、国内での回収量が増えて再生紙をたくさんつくるようになると、高級古紙の輸入も増えることになるのです。古紙の回収量が増え、それがどんどんリサイクルされて商品として売れればよいのですが、正直なところ売れていないのが現状です。
今、日本の紙のリサイクルは、まさに悪循環に陥っています。みんながリサイクルをすればするほど、回収業者さんの生活が苦しくなり、廃業してしまうので、それを回収する人がいなくなり、埋め立て地はゴミでパンク状態となり、自治体がリサイクルに乗り出しましたが、その費用には税金が使われるという始末となってしまいました。
一方、日本からの古紙の輸出先は韓国、台湾が中心です。日本と韓国・台湾の関係は、アメリカと日本の関係と同じように、日本では高級ではない古紙も韓国や台湾では高級なので、その国の古紙を再利用する際に使われるというわけです。高級な段ボールを使いたがる先進国からNIES諸国へと、経済水準の高さに沿って古紙も流れているのです。
1990年4月1日、日本製紙連合会は東京都と共に、5年間に日本での古紙利用率を当時の52.2%から55%に高めるとの努力目標を発表しました。この計画は、「リサイクル55(ゴー・ゴー)計画」と名づけられました。
図4にあるように、日本の古紙利用率は年々向上し、1987年には50%を超えました。その後、若干減少しましたが、1990年には前年より1.5ポイント上昇し、51.4%となりました。しかし、利用率を1%増やすということは並みの努力でできるものではありません。1987年を境に、回収率が利用率を下回っているのも問題です。どの業界の人に聞いてみても、1995年までに55%は無理だろうという答えが返ってきます。そこで、所期の目標を達成するための安直な手段として、古紙の輸入量を増やしてしまおうということになってしまっているのです。本当なら国内の回収率を上げなければならないのに、それが難しいからということで、輸入量を増やしてしまっているのです。一応、55%を達成すれば、市民の士気も上昇し、よりリサイクルに拍車がかかるだろうからという判断のようです。
しかし、こんな不自然な操作をしてまで、リサイクルする必要があるのでしょうか。
このような状況の陰で、回収業者さんの生活が圧迫され、転廃業を余儀なくされているのです。業者さんが廃業すればするほど、ゴミを税金で処理しなければいけなくなるので、私たちが損をするのです。
もし、回収業者さんがいなくなったら、どうなってしまうのでしょうか。ある回収業者さんは200坪の土地で1日に30tの古紙を回収処理しています。1カ月にすると、およそ800tにもなります。10tトラックで80台が運ばれてくるのです。もし、自治体が200坪の土地を用意するとしたら、いくらかかるでしょうか。10tトラックを80台分用意するとしたら、いくらかかるでしょうか。それだけではありません。3Kの代表とされるゴミの現場で働く人を雇うのに、いくらかかるでしょうか。それはすべて、私たちが支払っている税金でまかなわれることになるのです。回収業者さんが、いかに大切な存在かわかると思います。その大切な存在が、今や廃業に追い込まれ、その土地をマンションや駐車場にしてしまっているのです。
再生紙の値段は本当は安い!
日本でつくられる紙の半分以上は再生紙です。これは、今も昔も変わっていません。大手の製紙工場では環境問題とかエコロジーブームなどといわれるずっと以前から、その生産量の半分は再生紙です。新聞や週刊誌などは、ほとんどそうです。設備などのコストからしても、古紙から再生紙をつくるほうが安上がりなのです。やはり、外国から輸入した木材でつくったヴァージンのチップ(木片)を買うより、国内で回収した古紙を買ったほうが安いのは確かです(第5章で述べる、ユーカリ・チップは除く)。
大手の製紙工場には、以前から古紙再生の設備が当然ありました。しかし、中小の製紙工場にはないところが多かったのですが、環境問題が騒がれ、ビジネスチャンスということで、古紙再生の設備を導入した工場が突然増えました。その裏には、その設備を製作・販売する会社の営業力が強かったという問題もありました。
新しい設備を導入したということは、それによってつくられる製品は、その設備の“もと”をとるために、その分、従来の製品よりコストアップされます。そのため、必然的に、そうした工場でつくられた再生紙は値段が高いものになってしまっているのです。
また、これについては再生紙を売る販売店にも問題があります。従来の普通紙はある程度、売れるとわかっているので値引きしますが、売れるかどうかわからない再生紙はほとんど値引きしません。定価は再生紙も普通紙もほとんど変わらない場合でも、実際の売値に格差が生じてしまうのです。
ある大手製紙工場では、販売店に任せないで自社で再生紙の営業・販売をしています。情報用紙部という部署全体が再生紙を扱っています。この企業で扱っている情報用紙はほとんどが再生紙なのです。この企業では再生紙のほうがコスト的に安くつくることができるので、価格は普通紙よりも5%前後安くなっています。
生産量は販売量によって、決まります。販売量が少ないと、生産量を控えなければなりません。そうすると、紙をつくる工場の機械を1日動かして1日止めるというようなことをしなければならなくなります。止めている間はメンテナンスや掃除をしたりと、工場は止まっていても人件費や設備費などは当然、動いている日と同じようにかかってしまいます。その分が、コストに跳ね返ってきます。値段を高くしなければなりません。逆に、販売量が多くなれば生産量も増え、スケールメリットによって安く売ることができます。原料となる古紙は大量にあるので、再生紙の値段は要は販売力次第ということができます。
スチール缶はリサイクルする必要はありません⁉
空き缶はスチール缶とアルミ缶の2種類があります。自治体や各団体が回収していますが、その際、アルミ缶とスチール缶の選別をします。最近では、それぞれのマークが入っているので、選別しやすくなりました。また、多くは選別機で自動的に選別されます。自治体がどの回収業者さんを選ぶかは、ほとんどの場合、入札で決まります(詳しくは、第4章で述べます)。
スチール缶は前にもお話したように、現在、建設業が不振のため、工場が買ってくれないので、逆に、回収業者さんがお金を払って引き取ってもらっている状況です。そのお金は自治体が間接的に払っているので、そこでもまた、税金が使われることになります。
現在、日本では年間約1億tの鉄がつくられています。その鉄をつくることのできる工場は、全国で約70社あります。そのうち、前にも説明した、輸入した鉄鉱石を溶かして鉄をつくる高炉の工場が6社、スクラップを電気で溶かす電炉の工場は約60社あります。高炉は新日本製鉄など大きい企業で、電炉は中小の企業であるのが特徴です。石から鉄をつくる高炉のほうが質の良い鉄をつくることができるのは当然で、電炉ではビル建設の骨組みに使う丸棒ぐらいしかつくることができません。ですから、建設業界が不況になると、電炉業界もいっしょに不況になってしまうのです。そのため、鉄はダブついてしまい、スチール缶は必要ではなくなっているのです。これからも、この傾向は続くとみられています。
戦後の高度経済成長の際に建てられたビルが30〜40年たち、老朽化してきました。それに伴う建て替えで、今まで建っていたビルから大量のスクラップ…、鉄が出ることが予想されています。すると、ますます、鉄は供給過剰状態になるでしょう。
東京都は、
「スチール缶はリサイクルする必要はありません」
と、はっきり言っています。
それなのに、なぜ、スチール缶をつくるのでしょうか。スウェーデンでは、リサイクルしやすいということで缶飲料のほぼ100%がアルミ缶です。アメリカでも95%がアルミ缶です。しかし、日本では1年間に飲まれる缶飲料、約284億缶のうち、アルミ缶は30%にすぎません。残りの70%はスチール缶です。
日本でスチール缶が多く使われるのには、理由があります。例えば、岩手県の釜石市のように、昔から“製鉄の町”として栄えた町があります。そのような町には、多くの製鉄会社があります。特に、スチール缶を専門につくる中小の製鉄工場がいくつもあるのです。もし、スチール缶を使わなくなれば、それらの工場は倒産、町全体も死んでしまうでしょう。その製鉄工場で働いていた人たちは困ってしまいます。その人たちには当然、奥さんもいるでしょうし、子供もいるでしょう。これからの生活のことを考えると、本当に困ってしまいます。そのため、今のところ、スチール缶を使わざるを得ないのです。
「スチール缶を廃止して、100%アルミ缶に」
というリサイクル団体の人々がいます。しかし、その裏には、このような現実があることも知る必要があると思います。
ちょっとしたリサイクルの問題でも、このように一つの家庭、一つの会社、一つの町全体を殺してしまうこともあるのです。リサイクルは小さな問題ではありません。実は、すべてが含まれた、体系的で、すごく大きな問題なのです。ちょっとした思いつきやアイデアで、簡単に解決できる問題ではありません。目先の小さな問題が解決できたとしても、その後ろに隠れている問題はどんどん大きくなっていくのです。
話を、鉄の回収業者さんに戻します。
回収業者さんのところに集まったスチール缶などの鉄は、電炉工場が溶かしやすいように加工されます。空き缶をそのまま持っていっても引き取ってはくれません。
埼玉県にある、従業員20人、トラック6台保有、1カ月3,000tの鉄を処理する、創業50年の老舗の回収業者さんは次のように話していました。
「本当は加工するための大きな機械がほしいが、場所がなくて置くことができない。移転も考えたが、地価が上がったため、とても無理。周囲にも住宅が増えて、騒音が迷惑だと言われるようになった。大通り沿いなので以前は輸送にとても便利だったが、今では、逆に渋滞して作業しづらくなってしまった。移転したいので自治体に補助を求めたが、一つの工場に補助はできないと断られた。しかし、やめられたら困るとも言われた。とても、矛盾していると思う」
人がいるところに、鉄クズは発生します。山奥に移転したほうが、騒音などを気にせずに作業することができますが、誰も運んできてくれないし、取りに行くのも大変です。輸送コストだけでも、大変なことになってしまいます。このような問題は、まさに典型的都市型問題といえるでしょう。
以前は、鉄クズさえもアメリカなどから輸入していました。しかし、今では、ほとんどしていません。バブル景気が崩壊して、鉄の需要が減っているのです。30%もマイナスだという話です。今では、国内のスクラップで十分まかなうことができます。それでも、現実には、かなり余っています。その分は紙の場合と同じく、韓国や台湾に輸出しています。
国内の電炉工場の分布が不均等なのも、問題の一つです。関東にはスクラップは多いが電炉工場が少なく、関西は逆にスクラップが少ないのに電炉工場は多いのです。今までは関東から関西へ船で輸送していましたが、最近では、関西でもスクラップがダブつき気味で、どうしようもなくなってきました。バブル景気の建設ブームのときも、実は、関東では鉄は余っていて、関西に運んでバランスを保っていたのです。
鉄は錆びてしまうので、回収してから10日くらいしかストックしておくことができません。それ以上たつと使いものにならなくなってしまい、それこそ、引き取ってくれなくなります。一度錆びてしまうと、どのような形であろうと再利用はできないのです。
回収業者さんは電炉工場にしか、回収した鉄クズ、スクラップを持っていくことができません。もし、電炉工場が、
「今は鉄が余っているから引き取らない」
と言ったら、回収業者さんは本当に困ってしまいます。本来なら、電炉工場はほとんど独占企業なので、いくらでも力をふるえるはずですが、日本の電炉工場は良心的なので、そこまではしません。確かに余っていて値段は下がっていますが、持っていったものはすべて引き取ってくれます。
いくら需要が減って価格が下がったといっても、NIES諸国に輸出するほうが、取引価格が低いのが現状です。やはり、国内で“丸棒”として使ったほうが得ということなのです。
プラスチックのリサイクルも問題あり⁉
プラスチックのリサイクルについては、一つの代表的な例で説明したいと思います。
それは食品トレイです。
東京郊外にあるスーパーの『ダイエー』で回収している食品トレイを、リサイクルして再生されるまで追跡してみました。プラスチックのリサイクルには、さまざまな形があり、簡単に説明することができないので、食品トレイという、私たちの生活の中で最も身近なものを選んでみました。
ここのダイエーでは、1992年5月から食品トレイの回収を始めました。その中でもリサイクルしやすい白いトレイに限定しています。野菜や魚や肉などが乗っている白トレイを、家庭で洗って持ってきてもらいます。備えつけてある高さ1mくらいの箱に、平日で3杯、休日だと4〜5杯ぐらい集まります。1カ月にすると約100kgにはなるといいます。これは、予想していた数を、はるかに上まわる数字だったそうです。消費者のみなさんが、いかに環境問題に関心があるかということがわかります。
このダイエーがある市では、熱心にリサイクル問題を考えていて、市でプラスチック減容器を購入し、ダイエーなど、スーパーで集まった白食品トレイを市が回収しています。市の職員が1週間に1度、専用のトラックで回収にまわり、回収されたトレイは、市の清掃センターに集められます。そこで、4人の作業員が1日8,000円の予算で作業をしています。
まず、トレイといっしょに入っている紙、ビニール、輪ゴムなどを手で選別します。トレイ専用の回収トラックは、回収効率を高めるためにトレイをつぶして収納しますが、そうすると手選別しにくく、とても作業しづらいそうです。
選別された白トレイは、プラスチック減容器に入れられます。この減容器の中で298℃の温度で約10分間熱され、溶かされます。従来の減容器は熱する際に有害ガスが発生するため、住宅街の中ではなかなか使用することができませんでした。しかし、この新しい型の減容器は、炉の中に設けられたスプレーでつくり出す蒸気によって臭いを消し、さらに、炉の中で発生する有害ガスを再び炉の熱に変えることができるので、有害ガスをほとんど出すことがなく、住宅街の中でも安心して使うことができます。
溶けたプラスチックは、減容器の下に設置されている受け皿に溜まります。溜まったプラスチックは数十分で固まり、8〜10kgのブロックになります。それが1日に平均23個できます。
良質のブロックをつくるには、時間がかかります。十分に時間をかけて溶かせば、きちんと固まった、いいブロックができるのですが、回収されてくるトレイの量が多く、回収されたものは、その日のうちに処理するのが原則なので、どうしても時間をかけられず、いいブロックができないのが現状です。また、手選別したときにビニールなどが残っていると、それが表面に出てきて、とても目立ってしまいます。異物が入っていると、再生できないので引き取ってもらえません。そのため、異物はこの場でノミで取り除かなければならないのです。これがとても面倒で時間のかかる作業なので、その作業をしたくないため、手選別は慎重に行なわれます。
こうしてでき上がったブロックは、水の中に入れて冷やされます。熱している状態では、プラスチックは膨張しているので受け皿から、なかなか、はずれませんが、冷やすと縮まるので、すぐにはずれます。1時間くらいすると完全に冷えて、でき上がりです。
このブロックが一定量、溜まると、プラスチック減容器を製造販売している会社が引き取りに来てくれます。この会社は群馬県にあるのですが、わざわざ、東京まで取りに来てくれるのです。そこから、今度は埼玉県にあるペレット工場に運ばれます。
このブロックになった廃プラスチックは、1kg当たり約20円で、次のペレット工場に売られます。20円という値段は従来と比べると安いほうで、景気がいいときには40円で取り引きされることもあります。1kg当たり40円近くになると、ブローカーが現れます。この会社が東京の市役所から30万円で廃プラスチックのブロックを買っているとすると、「35万円で買います」というブローカーが現れます。どこからか、情報を得てくるのです。石油ショックのときには1kg当たり、なんと100円という相場になったので、実にたくさんのブローカーが現れたといいます。しかし、値段が下がると、またどこかへ消えてしまいます。
ペレット工場に運ばれてきたブロックは、まず、ブローアーと呼ばれる粉砕機で20mm大の粒になるまで粉砕されます。粉砕されたブロックの粒はタンブラーと呼ばれる大きな容器に入れられ、ジンクステアレートという滑りをよくする粉と混ぜ合わされます。これを、押出式ルーダーという筒状の機械の中で溶かします。220℃の熱で“あめ状”に溶かされた廃プラスチックは、機械の内部で回転している刃によって練られ、0.04mmの穴から“糸状”になって押し出された後、水で冷やされ、細かく切断されます。この細かく切られた粒が「ペレット」です。この工場では1日に25kg入りの紙袋にして80袋、1週間(5日稼働)で400袋、10tのペレットがつくられます。
ここから先は、できたペレットの質によって行き先がかわってきます。質のよいものは国内のプラスチック加工工場へ運ばれ、建築材料(木材のようにみえるプラスチック材)などに再生されます。質が悪いものは輸出され、ポリスチレンを40%混ぜてカセットテープやビデオテープのケース、おもちゃなどに再生されます。主に、東南アジア諸国で加工され、再び、日本に輸入されることになります。
しかし、輸出するためには何10tも集まらなければならないので、実際問題としては無理なのです。この埼玉県のペレット工場では、白食品トレイや他の発泡スチロールなど、質の良いものしか扱わないので、ペレット生産の過程でミスした質の悪いプラスチックを何10tも集めるのには、何十年もかかってしまいます。
そこで、このミスした質の悪いプラスチックは捨てられることになります。専門の業者さんに毎月引き取ってもらうのですが、4tトラックで回収に来て、1回につき7万円の手数料をとられます。この廃棄専門の業者さんがどこに捨てに行くのか、どのように処分するのかはわかっていません。
さて、この埼玉県のペレット工場でつくられたペレットは、質が良いので国内で加工されることになります。再び、東京の郊外のプラスチック加工工場へ運ばれ、そこで建築用資材に再生されるのです。皮肉なもので、東京郊外のある市で回収された食品トレイは群馬県、埼玉県を経て、再び、東京郊外に帰ってきてしまいました。それも、回収された市のすぐ近くの市のプラスチック加工工場に運ばれるのです。運ぶためにはトラックのエネルギーとコストが…。もし、回収したダイエーの近所で再生加工することができれば、無駄なエネルギーを消費することもないのですが、なかなか難しいものです。
食品トレイから再生された建築用資材は、主に、ビルの内装や外装、家庭のインテリア等に使われます。しかし、実はまだ、大きな問題が残っているのです。いくら建築用資材になったといっても、もとは食品トレイです。プラスチックです。そして、石油です。石油は、火で燃えます。有害な煙が出ます。ですから、もし、この資材を使ったビルが火事になった場合、火に巻かれるよりも、有害ガスにやられる危険性のほうが何倍も高くなります。
食品トレイが建築用資材にリサイクルできたからといって、喜んでばかりはいられません。たしかにゴミとして捨てられずにすんでよかったわけですが、実は、そのことによって、私たちがもしかしたら危険なめに遭うかもしれないのです。
多くの人の、多くの労力によってリサイクルされるプラスチック。しかし、どんな形になっても石油は石油で、燃やせば火がつき、有害な煙を出します。みなさんのまわりを見て下さい。家庭に、職場に、学校に、最近では、歩道のタイルにまで、廃プラスチックのリサイクル資材が使われています。一度火がついたらどうなるでしょうか。「リサイクルはみんながすれば損をする」どころの話ではありません。私たちにとって、危険であるとさえいえるかもしれません。
ここまでくると、プラスチックのリサイクルは本当に難しいことがわかります。やはり重要なのは、何に再生されるかということでしょう。この点について、私たちはもっとよく考えなければいけないようです。
リサイクル、見えない苦労がかくれてる
ところで、自治体は実際に、どのようにリサイクルをしているのでしょうか。埼玉県桶川市を例にみてみることにしましょう。桶川市は廃プラスチックを分別して、それから石油をつくるプラントを造り、プラスチック油化計画に全国に先駆けて成功した、リサイクルに積極的に取り組んでいる市です。数多くの自治体が運営しているリサイクルセンターを訪問しましたが、だいたい、次のようなシステムをとっているところが多いようです。
桶川市の人口は約7万人で、年間におよそ2,100tのゴミが出ます。同市では一般ゴミと資源ゴミに分けて回収しています。資源ゴミのアルミ缶、スチール缶、びん類は専用の黒いビニール袋に入れてもらい、回収します。回収した袋はリサイクルセンターに運ばれ、ベルトコンベアに乗せられます。まず、自動カッターで袋が破かれ、破られた袋の中から出てきたものをコンベアの横に立っている人が、缶とびん以外の異物が入っていないか、ざっとチェックします。缶とびん類は、そのままベルトコンベアに乗せられて1階から2階に上がり、大きな磁石の下を通ります。鉄は磁石につくので、ここでスチール缶が分別されるわけです。分別されたスチール缶は1階に落とされ、一定量たまるとプレス機によって押しつぶされ、ブロックにされます。
2階のベルトコンベアの横には、4人の作業員さんが立っています。一番手前の人がアルミ缶だけを、二番目の人は透明のびんだけを、三番目の人は茶色いびんだけを、最後の人は緑と黒いびん、そして、最終的に残った異物を手選別します。
ブロックになったスチール缶は鉄専門の、アルミ缶はアルミ専門の、びんはびん専門の回収業者さんに引き取ってもらいます。
ここで作業しているのは、ほとんどが身体障害者の方々です。月曜日から金曜日まで、9時から夕方4時の間、作業をします。毎日というわけではなく、ゴミの量によって、週4日だったり、5日だったりします。冬場は飲料缶やびんの数が少ないので週に3、4日作業すれば終わりますが、夏場はそうはいきません。その日に回収したものはその日に選別するというのが規則なのですが、残ってしまうこともあります。また、基本的に、雨の日は分別作業はしません。缶やびん以外の資源ゴミ、鍋などの金属類を分解したりする作業の時間に充てられます。
以前は5人で月間36tを処理していましたが、今は量より精度が問題ということで12tにしています。鉄やびんの相場が低いので回収業者さんたちも、より精度のよいものでないと引き取ってくれなくなってしまったからです。
このような、いろいろな方々の苦労の末に、私たちが回収した缶やびんがリサイクルされていくわけです。
リサイクル、自治体がやるだけ損をする⁉
埼玉県の人口は約640万人、ゴミ発生量は年間約210万tです。1日当たりの排出量は5,788t、1人当たりにすると1日約900gのゴミを出していることになります。このゴミの処理費用は898億円で、ゴミ処理事業に従事している人も2,883人に上ります。さすが首都圏、大都市・東京の隣の県だけあって、ゴミの増え方も目をみはるものがあります。年々、人口増によるだけでなく、1人当たりの排出量も次第に増えています。
それでは、これらのゴミのうち、どれくらいの量が再資源化されているのでしょうか。1990年のゴミ総資源化量は13万tでした。これは、ゴミ発生量の約6.6%に相当します。再資源化を実施している市町村は、埼玉県全92市町村のうちの74市町村で80.4%でした。分別収集をしているのは38市町村で41.3%、リサイクル団体に補助金を出しているのは61市町村で66.3%、集団回収を行なっているリサイクル団体は埼玉県全県で4,048団体(1991年度は5,527団体に増えています)、それらの団体の集団回収による回収量は7万8,460t(1991年度は11万t)でした。また、各市町村からリサイクルの集団回収団体に支払われた補助金は総額3億8,166万円でした。これが1991年度になると、5億3,700万円に跳ね上がりました。
これは、どういうことでしょうか。リサイクル団体に1年間で5億円ものお金を市町村は払っているのです。実際に集団回収をしている団体の方々は、これでも安いと言うかもしれません。しかし、今までみてきたように、アルミ缶は、まだ数割しかアルミ缶に再生されていません。スチール缶は、建設用の“丸棒”にしかなりません。しかも、自動車業界も建築業界も不況で、鉄もアルミも必要ありません。逆に、自治体がお金を払って引き取ってもらっている状態です。プラスチックも食品トレイの例のように、結局は石油は石油で、火がつくと、とても危険なものになります。紙も、私たちが回収して集めれば集めるほど相場価格が下がり、回収業者さんが倒産して、それに代わって自治体が集めなければならなくなります。そのコストには、私たちの支払っている税金が使われます。ある自治体では、1台45万円もする空き缶プレス機を何十台もリサイクル団体に配っているそうです。回収業者さんは、「たしかにつぶしたほうが、たくさん運べて便利かもしれないが、今度は砕いて溶かすときに困ってしまうんだ。つぶしてあると、砕きづらいし、溶けにくい。それだけ、余計なエネルギー、電気代がかかってしまう。運んでくる時のトラックのエネルギー量と排気ガスの量と、空き缶を砕き溶かすために余計にかかるエネルギー量、今の日本の電気は火力発電が中心だから、その火力発電にかかる石油などのエネルギー量と、それが出す排気ガスの量を比べてみる必要があるかもしれないな」
と言っていました。これは、スチール缶に限った話なのですが、逆に、アルミ缶に関しては、つぶしたほうが再生しやすいのです。アルミ缶は再生する場合、すでにつぶされたアルミ缶ブロックを溶解するために溶解炉の中に入れます。その時、もしつぶされていないと、缶の中に空気が入っているため、高温の熱と接触して爆発することがあるのです。
一度にたくさん運んでトラックのエネルギー量、コストを最少にするためにも、溶解して再生させるためにも、つぶしたほうがよいといえます。しかし、アルミ缶もスチール缶もがむしゃらに両方つぶしてしまうのは少し問題があるようです。
表3は東京23区におけるリサイクル事業の1992年度計画の一覧です。これで、自治体が具体的に、どのような形でリサイクル団体に援助をしているのか、わかると思います。
その中でも最もリサイクル団体が多いのは世田谷区で、区内になんと172もの団体があります。これは区役所に登録されている数ですので、実際には、もっと多くの団体があるようです。
また、ある自治体では、リサイクル活動を始めた年は担当者1人に年間の予算が100万円しかありませんでした。100万円では資料収集ぐらいしかできません。それが、2年目には担当者は2人になり、予算は倍の200万円になりました。しかし、これでも本格的なリサイクルの仕事はできません。3年目になると3人に増え、予算は一気に10倍の2,000万円に跳ね上がりました。これで、やっと他の自治体並みの事業ができます。ところが、4年目になると4人の担当者で1億円の予算がついたのです。それでも勢いは止まらず、5年目になると4億円の予算がリサイクルのために使われるようになったのです。たった5年で、予算が400倍も増えたのです。“柔軟性がない”と言われている自治体がなぜ、ここまでするのでしょうか。自治体内の詳しいお話は次の章でしますが、とにかく、これだけの予算が増えた裏では、他の部署から4億円の予算が削られているのです。
リサイクルが悪いと言っているのではありません。「環境を守るため」、「自分の健康を守るため」にリサイクルはしなければなりません。しかし、それが目的になってはいけないのです。あくまで手段なのです。
もう一度ここで、
「なぜ、リサイクルをするのか」
ということについて、考えてみる必要があるのではないでしょうか。
なんとかしなくちゃ!
今までの日本は、鉄クズ、紙ゴミなどの廃品回収業者さんがいたので、廃品の独自の経済循環、市場原理システムでリサイクルされていました。戦後の日本の経済成長の主力である鉄クズからつくる製鉄業を支えていたのは、回収業者さんでした。
1986年からの円高で、国内でリサイクルした廃品を原材料にするより、海外から輸入したヴァージン材料を使うほうが安くなってしまいました。廃品物の相場は下がり、回収業者さんの多くは倒産してしまいました。今まで回収業者さんが回収していた廃品物が、ゴミとして捨てられるようになってしまいました。バブル経済も助長して、東京の埋め立て地をはじめ、各県のゴミ処分場はパンク状態になってしまいました。
やがて、環境問題への関心も高まり、自治体が廃品物の回収に乗り出すようになりました。自治体はその予算を税金でまかなうため、回収業者さんよりも多くコストをかけることができます。自治体が回収したものは、工場に安く売ることができます。自治体は儲ける必要がないのです。多くのリサイクル団体はボランティアでどんどん回収するので、廃品物の相場はますます下がり、回収業者さんは激減しました。
自治体がリサイクルに乗り出すと、税金を使うので、他の部署の予算、例えば、教育や福祉の予算が削られるかもしれません。回収業者さんが回収をしていたときは、税金は全く関わらず、独自のシステムでうまく経済が循環していました。廃品物の回収・リサイクルは、自治体と回収業者さんがもっとお互いに協力し合って行なったほうがいいのではないでしょうか。
しかもなぜ、せっかく回収したのに、引き取ってもらうときにお金を払わなければいけないのでしょうか。それは、再生された商品に価値がないからです。なぜ、以前はチリ紙交換が多かったのでしょうか。古新聞は段ボールになります。その段ボールに、需要があったからです。価値があったから、古新聞が必要だったのです。価値のあるものにリサイクルされなければ、せっかく回収した廃品物も意味がないものになってしまうのです。価値のある商品にリサイクルされれば古紙に需要が生まれ、高い価格で取り引きされます。そうなれば、古紙を集めることが商売になるので、チリ紙交換屋さんが増えます。そうすると、私たちの出した紙ゴミも回収されやすくなり、リサイクルもうまくいくのです。価値ある商品にリサイクルされれば、その商品自体に価値があるので、捨てられなくなります。
今まで回収業者さんたちは、相場が下がりそうになると、回収していたものをわざと捨てて、価格を安定させたりしていました。経済循環を考えると、これは必要なことです。何にリサイクルされるのか知らないで、やみくもにどんどん回収ばかりしていると、ダブついてしまい、相場もどんどん低下します。そうすると、回収業者さんもどんどん倒産してしまいます。そしてまた、悪循環が始まるのです。
大事なことは、自分が回収しているものが、どんな商品になってリサイクルされているのかを知ることです。良いと思ってやったことも、実は、それがよくない結果を引き起こしていることもあるのです。
もし、このことを知らないと、本当に
「リサイクル、みんながやるだけ損をする」ことになるかもしれません。