1997年11月24日、「ラフォーレ原宿」前の明治通りの車道で、あるイングランド人がつぶやした。
「信じられない。これが国が後援しているパレードだなんて。なんて、日本はうらやましい国なんだ」。
あるテクノ大好きな男の子がボソッと言った。「『ラブパレード』だよ。これって」。
あるデジタル・ヒッピー風の人が叫んだ。
「革命だ!!」
そして、ある女の子が絶叫した。
「キャーーーーーー!!!!」
午後1時、代々木公園を出発したレインボーパレードは、馬簾太鼓を先頭に、“地球=命”、“人類=哺乳類”というプラカードを持った人々が行進していき、大音量バキバキのサウンドシステムを搭載したテクノ・カーが“虹”の装いで続いていた。その後には、テクノ・カーから流れてくるサイケデリック・トランスに踊り狂う人、人、人…。公園通りを下り、「タワーレコード」を左折し、明治通りへ。そして、「ラフォーレ原宿」の前を通り、千駄ヶ谷方面へ。「レナウン」を左折し、原宿駅前を通り、再び、代々木公園へ帰ってきた。すると、代々木公園では、世界的に有名なサイケデリック・トランスのDJ TSUYOSHIがプレイしていて、帰ってきたパレードと融合し、その盛り上がりは絶頂に達した。テクノ・カーでDJプレイをしていたのも、TSUYOSHIと同じマツリ・プロダクションのKEISUKEだった。1時間半ほどのこのパレード、参加人数は約6000人、街頭から見た人は軽く2万人を超えた。この様子は、テレビのキー局すべてでニュースとして報道され、「朝日新聞」には翌日、カラーで報じられた。
突如、現れたこのパレードは、一体、何だったのか。
1997年12月1日から10日まで京都で「地球温暖化防止京都会議(COP3)」が開催された。自動車の排気ガスや工場から排出される二酸化炭素(CO2)の排出量の増加が地球温暖化を助長しているとして、日本、米国、EU、ロシアの先進諸国が1990年を基準に削減値を決めるための国際会議だった。このパレードは、その削減値をできる限り高くすることをアピールするための一つの“行動”だったのである。
地球温暖化の問題は深刻だ。地球の平均気温は現在約15℃。大気中に微量に含まれる二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)などは、太陽から地球に降り注ぐ光(放射エネルギー)は素通しするが、暖まった地球から放射される熱(赤外線エネルギー)は吸収するという性質を持っている。このように、ちょうど、温室のように地球を暖めている気体を温室効果ガスと呼ぶ。ところが、人間の社会活動が活発化、排出される二酸化炭素などの量が急激に増えてきたため、温室効果が強くなってきた。地球規模で気温が上昇すると、海水の膨張や氷河などの融解により海面が上昇したり、気候メカニズムの変化により異常気象が頻発する恐れがある。
19世紀末以降、地球の平均気温は0.3~0.6℃上昇し、海面も10cm~25cm上昇した。このまま、地球温暖化が進むと、2100年には平均気温が現在よりも2℃、海面は50cm上昇すると予測されている。そうすると、小麦の生産量はインドで55%、中国で15%減少すると予測されている。農作物の70%を輸入に頼っている日本では深刻な食糧難が予測される。また、現在の日本の砂浜の81.7%が消失し、事実上、海水浴はできなくなると言われている。地球の温暖化を完全に止めるには60%の二酸化炭素の削減が必要だと言われる。しかし、結局、京都の国際会議で決まった削減率は先進国全体で5.2%、それも抜け道だらけの数値目標が最終的な合意となった。そして、1998年は11月にアルゼンチンのブエノスアイレスでCOP4が開催される。
それに向けて、今年も再び、「レインボーパレード」が動き出す。地球は、地球に生きるみんなのものだが、その地球が今、大変なことになっている。「レインボーパレード」は地球の祭典、大地の響き、命の目覚めであり、動物も植物も、この星に生きるもの、みんなの大行進である。新しい地球時代の幕開けを告げる、みんなで動かす地球のお祭りである。11月8日、日曜日、代々木公園を出発点として去年のあの神話が再び姿を現す……。