2000年6月4日、日本のクラブシーンに奇跡が起こった。
そして、その奇跡は一夜にして伝説となった。
代々木競技場・オリンピックプラザで開催された超巨大野外レイヴ・パーティ「THINKING EVOLUTION」は、延べ人数にして約4万人のクラヴァーたちが集まり、まさに伝説の一夜として、すでに語り継がれ始めている。
東京で、しかも、渋谷で、入場無料のダンスミュージックのフリーパーティに、これだけの人が集まったことが、かつて、あっただろうか。
4,500m2という広大な会場が人で埋め尽くされたのだ。
見渡す限りの人、人、人…。
クラウドたちの歓声は、地響きとなり、「ゴ、ゴ、ゴーッ」という重低音となり、渋谷の公園通りにまで鳴り響いた。
梅雨入り前の日曜日…、レイヴにはうってつけの真夏のような快晴。
「マニアックラブ」でSUNDAY PARTY「VIT」をオーガナイズするDJ YU-TAの華麗なエピックトランスからスタートした「THINKING EVOLUTION」。
まだ、午後1時だというのに、多くのクラウドたちが「待ってました!」と言わんばかりに踊り始める。DJブースのセッティングされたステージの横には会場中から見えるほどの巨大ビジョンが設置され、リュウジ・シラカワのVJプレイが披露されている。
会場に入ると、来場者全員に配られるパンフレット。これは、本誌「FLOOR-net」6月号(Vol.17)に掲載された「THINKING EVOLUTION ISSUE」の4ページを抜き刷りしたものだ。
この野外レイヴ・パーティ「THINKING EVOLUTION」は、環境問題、ドラッグ問題などのさまざまな社会問題を提案するパーティとして企画された。そのコンセプトに、昨年、イギリスで大ヒットし、今年8月に日本でも公開されるクラブ・カルチャー映画「ヒューマントラフィック」が全面サポートすることになった。VJリュウジ・シラカワの駆使する巨大ビジョンには、「NO DRUGS , YES WE ARE」「クラブシーンの真価とはNO DRUGで音を理解すること」などのメッセージが繰り返し流された。
午後2時を過ぎると、「CODE」第一金曜日のビッグ・ハウスパーティ「HITS」のレジデント、DJ TAKA-JUNにバトンタッチ。ギターをフューチャーしたロック調のプログレッシヴハウスをプレイすると、会場の熱気は一気に爆発! その後の、先日、フェリー・コースティン(システムF)とアジアツアーを成功させた「SOUND COLLECTION」のDJ TOKUNAGAの本場仕込みの実力プレイに繋げた。
そして、陽春のすがすがしい夕陽が代々木公園の深緑を照らし始めた最高の時、午後4時半を過ぎると、「リキッドルーム」での超ビッグ・パーティ「MOTHER SHIP」のDJ19が登場。ツボを得た、美しい波のようなエピックトランスの選曲に、会場は興奮の“るつぼ”に。エピックトランスがこれほどまでに野外に合うとは思ってもみなかった。やはり、イビサをはじめとしたヨーロッパでは、野外でエピックトランスのビッグ・パーティが頻繁に開かれるのもうなづける。
そして、午後6時、遂に、この日、最大のメインゲストDJ、イギリスから、このパーティのためのみに来日したオービタルのプレイが始まった。「ヒューマントラフィック」のサントラにも参加しているオービタル。ステージの上には、その「ヒューマントラフィック」の監督ジャスティン・ケリガンの姿も。オービタルのプレイに会場がものすごい歓声と共に一つになると、ケリガンもまるでMCのようにスピーチを始める。それに呼応するようにクラウドも盛り上がり、さらに、会場のヴァイヴは最高潮に達していく。
フィルとポールのハートノル兄弟のユニットであるオービタルは、この日、それまでのDJのプレイしていたエピックトランス中心の選曲とは違い、自分のスタイルを崩さない独自の音響的なブレイクビーツをプレイ。その先駆的だが、ググッと心の奥から盛り上がれる選曲に4万人のクラウドたちもノックダウン。この時のクラウドたちの唸るような歓声の地響きは、日本のクラブシーンにおいて、まさに伝説の一夜として語り継がれるであろう。
アンコールとして、「ヒューマントラフィック」の感動的なラストシーンで使われる「BELFAST」がプレイされると、多くのクラウドたちが“肩車”を始め、会場も感動的なラストシーンを迎えた。その会場の様子は巨大ビジョンに映され、“クラブパーティの主役はみんな一人一人”だというクラブ本来の姿のアピールも演出された。
陽もドップリ沈んだ午後8時、会場を後にする多くのクラウドたちの笑顔は今でも脳裏に焼きついている。
2000年6月4日、「THINKING EVOLUTION」は僕たち、クラブを愛する者たちにとって忘れられない記念すべき日となったことは間違いなさそうだ。