2000年6月4日、オービタルがイギリスから来日し、DJ YU-TA、DJ TAKA-JUN、DJ TOKUNAGA、そして、DJ19がプレイして伝説の野外レイヴ・パーティとなった、国立代々木競技場・オリンピックプラザで開催された「THINKING EVOLUTION」。延べ人数にして約4万人が参加したこの超特大ビッグ・パーティ。
今年2月、ドラッグ問題や環境問題などのさまざまな社会問題について考えるパーティとして、この企画はスタートした。その主旨に、昨年、イギリスで大ヒットして、今年8月に日本でも公開されるクラブ・カルチャー映画「ヒューマントラフィック」が全面サポートしてくれることになり、生まれたのが「THINKING EVOLUTION」というプロジェクト。さらに、そのプロジェクトを本誌「FLOOR-net」がバックアップしてくれることになり、同名のこの「THINKING EVOLUTION」という連載が始まった。レイヴと映画と雑誌が一体となったこのプロジェクトは、「東京の野外で数万人規模のレイヴ・パーティを無料でやろう」という目標を掲げた。
「ドラッグ問題、環境問題など、さまざまな社会問題を提案していこう」というコンセプトに、「ヒューマントラフィック」のサントラに参加していたオービタルが共鳴、このパーティだけのために来日してくれることになった。フィルとポールのハートノル兄弟によるユニット、オービタルはこのパーティの打診を受けたとき、「こんなエクセレントな企画に参加できる僕たちは幸せだ!」と喜んだという。
さて、この「THINKING EVOLUTION」というプロジェクト、もともとは、クラブシーンにおけるドラッグ問題を何とかしようということで始まった。本誌4月号(Vol.15)と5月号(Vol.16)の2回に渡って、この連載「THINKING EVOLUTION」の「ドラッグについて考える」前編と後編で述べたように、昨年から東京のクラブシーンにドラッグ取り締まりに関与した警察が介入してくるようになり、いくつかのクラブが営業停止になったり、多くのクラブが営業時間の短縮を余儀なくされ、クラブ数、パーティ数が減り、レコードショップの売り上げも鈍り、スポンサーとなっていた企業も撤退し始めるという危機的な状況に追い込まれていった。
そこで、クラブ側からドラッグ問題について考えたり、「ノードラッグ」をアピールしていく姿勢を示して、アクションをおこしていこうという話し合いを、「ヒューマントラフィック」サイド、「FLOOR-net」サイドと共に行なった。より多くの人たちに、クラブシーンは「ノードラッグ」でこんなに健全だということをアピールするために、野外で入場無料のパーティをやる必要があった。また、より多くのクラブ・ピープルに「ノードラッグ」を提案するために、多くのクラブ・ピープルが集まる内容にする必要があった。このようなコンセプトにオービタルは共鳴してくれて、他のいくつものブッキングを蹴ってまで、来日してくれることになった。そのオービタルを無料で見れるということで、多くのクラブ・ピープルが集まった。これは最高の相乗効果であろう。そして、当日は、次のような内容のフライヤーを来場者ほぼ全員に配布し、会場に設置された巨大ビジョンでも繰り返し流した。
「NO DRUGS , YES WE ARE みんなで本当のクラブシーンを切り開いていこう! クラブシーンの真価とはNO DRUGで音を理解すること」
デトロイト・テクノの雄、ジェフ・ミルズ
「僕はいつも日本でプレイするのを楽しみにしているんだ。日本ではドラッグを摂っていないクラウドが大半だ。みんな、僕のプレイに集中してくれる。僕も真剣にならざるを得ないんだ。本当の僕のプレイを理解してくれているのは日本人だと思うよ」。
UKレイヴDJの第一人者で、ドラム&ベースの創始者の一人、DJブロッキー
「それまでは、みんな、ドラッグを摂って踊っていたよ。でも、ある日、ドラッグが原因で仲間の一人が死んだんだ。それからはドラッグは控えて、その代わりにフィーリングを大事にするようになった。音を理解するようになってきたんだよ。もう、ドラッグは要らないという気持ちにまでなった。それ以来、ドラム&ベースは、ノー・ドラッグで、ビートに集中して踊るのがマナーになったんだ」。
折しも、「ヒューマントラフィック」の若き25才の監督ジャスティン・ケリガンは、14才のときからレイヴ・ムーブメントにドップリはまり、一時は、自らドラッグ中毒だったこともあるという。「ヒューマントラフィック」の映画の中でも主人公たちはドラッグをキメこんで、週末のクラブで踊りまくるが、その後のリバウンドに悩み、最後にはドラッグをやめる決心をする。このような内容の映画が、今の東京のクラブシーンにおいて、ドラッグ問題に取り組もうとしているパーティに全面的にサポートしてくれるというのも最高の話だったわけだ。
しかし、6月4日当日は主催者側の予想を遥かに上回る約4万人という参加者の数に「ノー・ドラッグ」を思うようにアピールすることができなかったことは否めない。この問題については、これからもクラブ関係者が話し合いの場を持ち、一歩一歩、改善の努力をしていかなければならないだろう。
次回は、「THINKING EVOLUTION」における、ごみの問題をクローズアップしてみる。