第5回
6月4日の伝説の一日の裏にある真実(後編)


2000年6月4日、代々木競技場・オリンピックプラザで行なわれたビッグ・レイヴ・パーティ「THINKING EVOLUTION」。オービタルがイギリスから来日し、DJ YU-TA、DJ TAKA-JUN、DJ TOKUNAGA、そして、DJ19がプレイして、延べ人数にして約4万人が参加し、すでに、クラブシーンの歴史に残る伝説として語り継がれ始めている、この超巨大レイヴ・パーティ。 当日は、快晴に恵まれ、大きな事故もなく、内容的にも感動的な最高のパーティだったのだが、一つだけ、大きな問題が残った。当日、会場に訪れた読者なら気づいたと思うが、プログラム終了後、会場に設置された分別ごみ箱には、分別されていないごみが溢れかえっていた。後日、メールなどで、この問題について指摘してきてくれた人も何人もいた。
「THINKING EVOLUTION」はもともと、ドラッグ問題や環境問題など、さまざまな社会問題についての進化について考える主旨のパーティとして企画された。フライヤーの中でも「例えば、毎日、大量に発生しているごみは、燃やすとダイオキシンが発生する。日本では、リサイクルもうまくいっていない…」とうたっていた。にも関わらず、当日の会場のごみの山は何だったのか。 「THINKING EVOLUTION」実行委員会のスタッフは当初、会場内で発生すると思われるごみの問題について連日、頭を悩ませていた。昨年11月に、代々木公園で行なわれた「レインボーパレード」のように、ごみを53分別に徹底的に分けてリサイクルさせるべきか、はたまた、今年4月に山梨県の道志村で行なわれたレイヴのように、使った食器類等はその場で各自が洗って返却するべきなのか。
例えば、ドリンクをどうするのかという問題。缶やPETボトルだと結局は飲んだ後、ごみになる。はじめから、ごみにならないものを提供したい。ということで、浮かんだアイディアが、屋台のドリンク・コーナーをつくり、メーカーから樽(ボックス)でドリンクを会場に持ってきて、その場で、生分解性プラスチック製のコップに入れて販売するというもの。使用しようと思ったのは、アメリカの総合化学メーカー、バイオコーポ社の、焼却してもダイオキシン発生の心配がないだけでなく、100%自然分解する完全分解性で、堆肥可能なプラスチック製のコップ。ポリエチレンやポリスチレンなどの化学物質を一切含んでおらず、主成分はトウモロコシのでんぷん(コーンスターチ)を他の完全生分解性物質(バイオポリマー、セルロースなど、全く自然のもの)とうまく結合させた特殊樹脂。この樹脂は堆肥化した際に、二酸化炭素、水、バイオマスに生分解されてしまうので、化学残留物を残さない。しかも、通常のプラスチック製品と見た目にも変わらず、水や湿気にも強く、軽量で扱いやすく、濡れても丈夫。このような、バイオ技術を駆使したハイクオリティなコップを使うことによって、また、使い終わったら、このコップだけを分別回収することによって、最も大量に発生すると思われるドリンクの容器ごみ問題は解決できると思った。
会場となる代々木競技場・オリンピックプラザは国立で、国の施設。いろいろなことに対して、規定が実に細かい。代々木競技場の業務課に、そのドリンクについて相談したところ、飲食物を取り扱う場合は、渋谷区の保健所に届け出て許可をもらうことが必要だということ。早速、保健所に行って話をしたところ、屋外で行なうイベントの場合、飲食物の容器の入れ換えはほとんど許可がおりないと言われた。どうも、和歌山県で起きた毒物混入カレー事件以来、もともと、メーカーで完全に包装されている製品以外は屋外で何か別の容器に移し換えるという行為自体ができなくなってしまったらしい。
これでは、ごみ対策はできない。結局は、缶やPETボトルに入ったドリンクを用意するしかない。缶やPETボトルも分別すれば資源となるが、現状では回収されるPETボトルのほとんどがリサイクルされていない状況にある。なんとか、ごみにならない容器を使いたいと思っていたのだが…。
ドイツのフライブルク市やミュンヘン市などでは、屋外で行なうイベントで、缶やPETボトルのような使い捨て容器を使用することが条例で禁止されている。ほとんどの場合、びん入りのドリンクが販売され、びんを返却すると、デポジット金額が却ってくる仕組みになっている。
しかし、「THINKING EVOLUTION」の場合、びん入りのドリンクを販売するわけにはいかなかった。なぜなら、もし、会場でびんが割れてしまい、それを踏んだりしてケガをしたりしたら大変だからだ。
また、フード類の容器対策も同じように困難だった。ドイツでは、ジャガイモでできた皿やスプーン、フォークなどがあり、全くごみの出ない屋外イベントも開催されている。
「THINKING EVOLUTION」実行委員会スタッフ一同が困惑したごみ対策。6月5日の朝までかかった、会場と周辺のごみ拾いで痛感したごみ対策。「THINKING EVOLUTION」のようなレイヴは今後、増えていってほしいが、それにまつわるごみ対策も大変だと思うが、きちんと考えてほしいと切に願う。