第6回
真のシーンをつくるために


今や、ダンスミュージック・クラブカルチャーはヨーロッパ、北米をはじめ、アジア、オセアニアと地球規模で定着している。
ダンスミュージック・クラブカルチャーを担うハウスやテクノ、ドラム&ベースといった曲をつくる際に用いられる機材はROLAND、YAMAHA、AKAIといった日本のメーカーであることが多い。それらのメーカーの機材でつくられた曲はレコードとなり、クラブでDJプレイされる。その際に使われるターンテーブルは、大半が日本のメーカー、テクニクス。このように、ダンスミュージック・クラブカルチャーは日本のテクノロジーなくしては存在しないと言っても過言ではない。
1980年代初頭、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)は当時、最先端の日本の技術を駆使して、テクノ・ミュージックを次々と発表し、世界を制覇していった。その後、90年代に入り、テクノ・ミュージックを原点としたダンスミュージックをつくる日本人の数は海外のそれと比べるとあまりにも少ない。その中でも、ハウスのシーンではサトシ・トミイエが、テクノのシーンではケン・イシイや石野卓球が、ドラム&ベースのシーンではL.T.J.ブケムのグッドルッキング・レーベルからリリースしているMAKATOなどが、世界規模のアーティストとして有名だが、まだまだ、その数は少ない。日本のジャパニメーション、ハイテク技術などが世界から注目されている一方で、ミュージック・ソフトのリリースの数の少なさは今後の課題といえるだろう。
日本国内に目を向けてみると、日本のメーカーの機材を使って、楽曲をつくっている海外のアーティストのレコードを買いあさる日本人の多さは圧倒的だ。そのレコードを買うために、好きでもない仕事をしている日本人はとても多いと思われる。
ダンスミュージックは、言葉の壁などによる国境がない。国を問わず、いい曲は地球規模でリスペクトされる。そのため、いい曲は地球規模のマーケットで購買されるため、いい曲を一曲でもつくれば、その曲は世界中でヒットすることになり、曲づくりだけで生活していくことができるようになる(実際、海外のアーティストはほとんどそうだ)。
日本人は実は、世界で最もダンスミュージックをつくるのに恵まれた環境にあるといってもいい。なぜなら、ダンスミュージックをつくるための機材のメーカーは、そのほとんどが日本のメーカーなのだから。
21世紀を目前にした現在、今こそ、機材のメーカーとユーザーが一体となって、日本発のダンスミュージック・シーンをつくるときではないだろうか。ダンスミュージックをつくる日本人を増やす、市場を創り出す。それによって、海外のアーティストたちの作品を超えた曲を生み出すことができるようになるだろう。それが地球規模でリリースされ、購買されるようになれば、曲づくりで生活をすることができる日本人が増えることだろう。
もう、好きでもない仕事をする必要はない。日本国内でダンスミュージックの曲づくりの市場が拡大していけば、メーカーとしてユーザーの声を反映させる形で、よりニーズに合った機材を開発できるだろう。そのような機材を使ってつくられた曲は、日本発の最先端のダンスミュージックとして、地球規模でリスペクトされるだろう。
そのために、このようなシーンを創り出したい。
“もう、踊るだけではつまらない。そうだ、曲をつくってみよう!”