クラブでのパーティのスケジュールなどの情報を得る手段は、今も昔も変わりはない。フライヤーだ。クラブやレコードショップ、そして、さまざまなショップに置かれたフライヤーが、パーティの情報を知る最もポピュラーな手段だ。しかし、最近ではインターネットや携帯電話でのiモード、jスカイウェブ、EZウェブなどから、手軽にクラブのパーティ情報を得ることも定着している。
都会部以外に住んでいる人は、確かにフライヤーを手に入れるためだけに、わざわざ、都会部のクラブやレコードショップに足を運ぶのは大変だ。あくまで、買い物などのついでに、フライヤーをもらっていくというのが多くの人のパターンだろう。ここ3、4年、インターネットによるクラブ情報のサイトが急激に増え、大変、便利になった。時代の流れからすれば、これは当然といえば当然である。
クラブとインターネットの関係の歴史は古い。1992年、旧ユーゴスラビア内戦が勃発し、セルビア人とクロアチア人、そして、イスラム教徒の三つ巴の戦いが始まると、アムステルダムの若者たちを中心とした多くのクラヴァーたちは、双方の和解を図るため、ボスニア・ヘルツェゴビナ等で、地道にレイヴを開催し始めた。その情報手段として、彼らは当時、新しい技術であったインターネットを活用したといわれている。その後、ヨーロッパのクラヴァーたちは情報ツールとしてインターネットを駆使し続けている。
携帯電話でクラブ情報を得るというのは、実に日本的だ。「小さいものを作らせたら世界一」といわれている日本人は、携帯電話の中に独自のインターネットの世界をつくり上げた。これによって、どこにいても、クラブの最新情報を得ることができるようになった。さらには、クラブでよくプレイされるトラックの着メロをダウンロードすることも容易だ。このように、新しいメディアによるクラブ情報の発信により、どこにいてもパーティ・スケジュールなどを知ることができるようになった。
実は、僕も以前、新しいメディアによるクラブ情報の発信を試みたことがある。インターネットが広まる遥か以前、1988年、NTTは「キャプテン・システム」という新しいメディアを普及させようとしていた。これは、テレビと電話回線をチューナーを介して結び、双方向の情報を送受信できる、当時としては画期的なシステムだった。iモードの初期の発想と同じように「キャプテン・システム」も、航空券や新幹線のチケットを予約したり、バンキングができるというのが“うり”だった。
このシステムのコンテンツ制作に携わっていた僕は、この「キャプテン・システム」の新しい使い方として「クラブ情報」を提案した。当時はクラブのフライヤーを手に入れるしか方法はなく、行き当たりばったりで遊びに行くと、営業していなかったり、貸し切りパーティだったり、全然違うジャンルのパーティだったりしたことがよくあった。自宅でクラブのスケジュールがわかったら便利だろうなと思っていた僕は、早速、その企画を立て、実際に東京中のクラブをまわり、担当者と会い、まずは「キャプテン・システム」をクラブに置いてもらうことから始めた。ここでも、かなりの苦労があったが、多くのクラブから「キャプテン・システム」用にパーティ・スケジュールをもらえることにはなった。それを入力し、クラブ情報を「キャプテン・システム」によって全国に発信し始めた。
しかし、肝心の「キャプテン・システム」そのものが全く普及せず、クラブ情報自体も多くの人が利用することなく、1988年のこの幻のメディアはその姿を消してしまった。あの頃の状況を考えると、今のクラブ情報を得る環境というのは、実に恵まれていると思う。これからも、クラブ情報が、より早く、より正確に、より詳細に、そして、どこでも気軽に得られるような環境をつくっていきたいと思う。