今、日本は「携帯不況」だと言われている。若者たちを中心とした携帯電話の多用により、不況が起きているというのである。国の機関の調査によると、10代後半から20代後半までの世代の携帯電話料金は毎月平均2万円を超えているそうだ。毎月のこの携帯電話料金2万円のために、CD、ゲームソフト、そして、洋服などの売上が軒並み下がっているという。毎月2万円という額は大きい。例えば、今まで洋服一着とゲームソフト一個、そして、CDを3枚、毎月買っていた分が、全て携帯電話の料金になってしまうことになる。これは、その世代の自由に使える金額の中に占める割合としては非常に大きいと言わざるを得ない。「CDが売れない」「ゲームソフトが売れない」「洋服が売れない」、各業界の人たちに会うと、二言目にはこのような言葉が漏れてくる。そして、いつも話しているうちに辿り着くのが、携帯電話がその原因ではないかということだ。
先日、会った、ある出版社の人の話によると、なんと、週刊コミックまでもが売れなくなってきているという。その話を聞いた後、電車の中を改めて見渡してみて、驚いた。つい最近まで、電車の中の多くの若者、サラリーマン、OLたちは週刊コミックを読んでいた気がしたが、その日、ほとんど誰もがコミックを読んではいなかった。その多くの人たちは必死に携帯電話でメールを入力していた。
総務庁のある調査によると、携帯電話を持っている全国の高校生の一日の平均のメール送受信回数は10回だそうだ。この数字を知って、驚いた。僕も携帯電話でふつうにメールをやりとりする。しかし、10回送受信するというのは、かなりの労力だし、時間もかかる。高校生たちは一日にメールのやりとりの時間を相当、費やしているのではないだろうか。
そんなことを思っていた矢先、ある映画配給会社の人と話していると、なんと、レンタルビデオまでが低迷しているという。ここでもまた、携帯電話がその原因になっているというのが、業界の通説になっているらしい。確かに高校生が一日にメールの送受信を10回している時間で、以前はレンタルビデオを借り、映画を観ていたかもしれない。
CD、ゲームソフト、ビデオ、そして洋服。若者のカルチャーそのものが今、携帯電話を前にして、危機的状況におかれているのではないだろうか。振り返ってみると、確かに僕自身、電車の中では、以前は必ずいろいろな雑誌を読んでいたが、最近では、すっかりメールの送受信に追われている気がする。
そんなおり、さらにショッキングな出来事が起こった。ある友人を誘ってクラブに遊びに行こうと思ったら(携帯電話を使ってだが…笑)、「予想をはるかに上回る携帯電話の請求がきて、今月はもう経済的に苦しくて、クラブに遊びに行けない」と言うのだ。クラブで話した、あるレコードショップの店員さんも、携帯電話のおかげでレコードの売上が落ちているジャンルも結構あると話していた。
クラブに遊びに行くときは、携帯電話は便利だ。待ち合わせをしなくても、友人に気軽に誘いの連絡をすることもできる。携帯電話のiモードやJスカイウェブ、EZウェブを使ってクラブ情報を手軽に入手することができる。しかし、携帯電話が原因で、クラブに遊びに行けなくなるなんて、本末転倒だ。携帯電話に溺れて、僕たちのカルチャーそのものに目が向かなくなる状況はとても怖い気がする。
“常に誰かとつながっていたい”と思うのは、多くの人間の心意だと言う。コミュニケーションをとることは、カルチャーを維持・進化させていくことよりも、重要視されがちであるのは事実であろう。だとすれば、今の状況は仕方ないものなのであろうか。NTT DoCoMoが新しく提案している音楽配信システム「M-STAGE」や映像配信システム「EGGIE」、そして、WCDMAによる次世代型携帯電話のシステムは、僕たちが再び音楽や映像といったカルチャーを取り戻すきっかけとなるのであろうか。