今、ダンスミュージックのジャンルによる壁がなくなりつつある。エピックトランス、プログレッシヴハウス、ハードハウス、サイケデリックトランス、テクノといったジャンルに大きな変化が見られ始めている。最近では、このようなジャンルのパーティで共通のトラックがまわされることも少なくない。今、クラブシーンは非常に特殊で、大きな転換期を迎えている。
1998年にU.K.においてプログレッシヴハウスのシーンで、サイケデリックトランスの「1998」というトラックが大ブレイクし、エピックトランス/プログレッシヴハウスというジャンルが確立された。そのジャンルは世紀末のお祭りムードのヨーロッパを口火に世界中に広がり、地球規模のクラブカルチャーを定着させた。しかし、エピックトランス/プログレッシヴハウスのわかりやすいメロディーの部分はフューチャーされることが徐々に少なくなっていき、プログレッシヴハウスがダンスシーンのメインとなってきた。
U.K.で発達したプログレッシヴハウスに対し、ニューヨークではハードハウスが発達していた。U.K.のプログレッシヴハウスが、ニューヨークのハードハウス・シーンでブレイクし、逆に、ニューヨークのハードハウスが、U.K.のプログレッシヴハウス・シーンでブレイクし出した。そして、プログレッシヴハウスとハードハウスは融合していった。
さらに、マイアミで開催されている地球規模のクラブの祭典「マイアミ・ウィンター・コンファレンス」において、全世界のクラブ関係者が一同に介し、2000年はテクノがダンスミュージックカルチャーで主流となることが確認された。こうして、サイケデリックトランスとエピックトランスとハードハウスを融合していたプログレッシヴハウスに新たにテクノが融合されることになった。もはや、メインストリームである全てのダンスミュージックを呑み込んだ現代のプログレッシヴハウスは、史上最強のダンスミュージックとなった。
世界でのこのような流れに対応するように、日本のクラブシーンでも同様の現象が現れたのである。1998、1999年、ヨーロッパでは世紀末のミレニアムのお祭りムードに合わせて、わかりやすい、誰でもダンスに参加できるエピックトランス/プログレッシヴハウスが大ブレイク。各国で数十万人規模の巨大なシーンが発達した。その後、プログレッシヴハウスは、ハードハウスやテクノをも巻き込み、現在、さらに巨大なものへと進化を続けている。日本のクラブシーンでも、エピックトランスの一大ブームでクラブ人口は増大していると言われている。
さらに、すでに定着していたハウスやテクノ、サイケデリックトランスのシーンとも、プログレッシヴハウスを介して融合してきているので、さらにシーンは増大していると言える。今までは、自分の好きなジャンルのパーティにしか行くことはなかった多くのクラヴァーたちも、最近では、どのジャンルのパーティに遊びに行っても、十分楽しめるという状況を感じることも少なくないはずである。テクノのパーティも、サイケデリックトランスのパーティも、エピックトランスのパーティも、プログレッシヴハウスが基本のパーティとなっていることが多くなってきているのである。
クラブミュージックのジャンルの違いによって、クラヴァーたちのファッション、ライフスタイル、そして考え方までもが異なっていると言われる。この機会に是非とも、いろいろなジャンルのクラヴァーたちと接触してほしいものである。そして、今まで触れることがほとんどなかったジャンルの人たちのライフスタイルや考え方を知ってほしいと思う。たぶん、こうしたクラヴァー一人一人の理解がクラブシーンを考える上で、非常に重要なきっかけとなるだろう。
そして、この機会にジャンルの壁を超えた巨大なパーティの登場を期待したい。その巨大なパーティによって、世の中にクラブの存在をアピールし、シーンを大きくしていくことが、クラブシーンの進化につながると思う。クラブシーンが大きくなり、パーティに多くのクラヴァーたちが集まるようになると、サウンドシステムやライティングに、より多くの予算をつけられるようになる。いいサウンドシステムで聴いた大音量や、いいライティングで体感したレーザーは、アミューズメント心をくすぐり、リピーターや、さらなるクラヴァーの広がりにつながる。こうして、シーン全体が進化していくのだ。
世界の主要な都市のクラブシーンは今、こうして急速な進化を続けている。日本も乗り遅れてはいけない。クラブシーンの世界標準に乗り遅れない、いや、日本がその牽引役となるべきなのではないだろうか。ジャンルの壁がなくなりつつある今こそ…! そんなプログレッシヴハウスも、ここ最近はディープな方向に進みつつある。さまざまなジャンルと融合を重ねてきたプログレッシヴハウスも間もなく、また、ジャンルによる細分化を始めることだろう。その行方は、今年も3月末に開かれる「マイアミ・ウィンター・コンファレンス」で明らかになるに違いない。