第14回
世界最高の音を東京で体感した!


まさか東京でこの音を体感できるとは思わなかった!世界最高のサウンドシステムを誇るニューヨークの超有名クラブ「TWILO」で体感するのと同じ体感を東京ですることができたのだ。
4月7日、Zepp Tokyoで行なわれた「WOMB」の1周年記念パーティに、ハードハウス界のみならず、世界のDJ界の“GOD”とも言うべきジュニア・ヴァスケスが来日、同時に彼がレジデンスを務めている「TWILO」のサウンドシステムと同じシステムがこの日、「Zepp Tokyo」に再現された。
渋谷にある「WOMB」は、「TWILO」と同じサウンドシステムを持つことで有名だが、実は「WOMB」は他のスペースでも同じサウンドシステムでパーティを開催していくために、モバイル用の「WOMB」と同じサウンドシステムを開発した。モバイル用といってもその規模は半端ではない。この日、フロアに設置されたスピーカーは、等身大(160cmを超える)の高さのものがなんと44発。このモバイル用の、「TWILO」と同じサウンドシステムで、「Zepp Tokyo」で開催していくパーティが「PLANET TWILO」。この日はその第1回目という位置づけだった。
一体、このサウンドシステムがどれだけ凄くて、素晴らしいかということは、まさに体感してみなければわからない。文字では表現のしようがないが、できる限りの文章で表現してみたいと思う。まず、フロアに入って感じるのは、それほど音自体は大きくないということ。とかく、「音が大きければ、それはいい音」と思ってしまいがちだが、それは良質の音というものに対する認識不足だということに、すぐに気づく。このサウンドシステム、フロアに立つだけで肌が震えるのだ。音の粒子が細かいと言えばいいのだろうか、音が、まるでそこにあるかのように見えるのだ。スピーカーの配置にも特徴があり、頭の上から「High」の音が降り注ぎ、足元からは「Low」の音が内臓を揺さぶる。まるで上下の音に、はさまれているかのような錯覚に陥る。
さらに驚いたのは、パーティが終わり、自宅に戻ってからだった。普通、クラブで踊って、朝帰って来て、ベッドに入ると、強烈な耳鳴りがするものだ。しかし、この日は全く耳鳴りがしなかった。ジュニアはロングプレイで有名だが、この日も22時から始まり、6時のラストまで8時間、一人でDJプレイし続けた。この間、僕は約6時間以上フロアにいたにもかかわらず、全く耳鳴りがしなかったのだ。
世界最高のサウンドシステムに驚いた。それは究極の人間工学に基づいて開発されていたのだ。ジュニアのロングプレイにも対応できる、長時間フロアにいても疲れない、耳に優しいサウンドシステム。この驚異のサウンドシステムを開発したのが、スティーヴ・ダッシュだ。ニューヨークの「TWILO」をはじめ、ロンドンの「Home」、リヴァプールの「Cream」など、世界の超有名クラブのほとんどには、実はスティーヴが手がけたサウンドシステムが導入されている。彼がいなかったら、今の世界規模のクラブシーンは存在しなかったとまで言われ、世界のクラブ関係者から尊敬されているスティーヴ・ダッシュ。
現在、50代の彼はちょっと普通ではない生い立ちの持ち主だ。1960年代から70年代にかけて、ベトナム戦争に従軍。現地で敵に見破られないような複雑な無線の調節を担当した。その後、アメリカ空軍でジェット戦闘機のレーダーを開発するエンジニアとして活躍。最高機密のエンジニア力を身につけた。1970年代中期になると、ひょんなことから、あのニューヨークの伝説として語られているクラブ「STUDIO 54」のサウンドシステムエンジニアを担当することになる。ディスコからクラブへ、その価値観を大きく覆した伝説のクラブ「STUDIO 54」。スティーヴのサウンドシステムがなかったら、クラブへの進化はなかっただろうとまで言われている。
彼は機材のパネル上で音のチューニングをする単なるエンジニアではなく、機材をバラして、その内部を最適な音が出るように改造してしまうのである。その後、あの「Sound Factory」を手がけ、そこで運命的な人物とめぐり会う。ジュニア・ヴァスケスとの出逢いである。スティーヴが手がけた「Sound Factory」のサウンドシステムを、初めてジュニアが使いこなしたのである。ジュニアのプレイはスティーヴのサウンドシステムで最大限に表現され、スティーヴのサウンドシステムはジュニアのプレイで最大限に生きてくるのだ。この噂はヨーロッパをはじめ、世界中に飛び火し、DJとサウンドシステムの関係の重要性を再認識させ、地球規模のクラブシーンの拡大に大きく貢献した。
実は4月7日の「Zepp Tokyo」にそのスティーヴ・ダッシュがジュニア・ヴァスケスと共に来日、彼が手がけた「TWILO」のサウンドシステムと同じモバイルサウンドシステムでエンジニアを務めていた。この日、スティーヴのオペレーターとして活躍していたのが「WOMB」のエンジニア、谷田部丈夫。彼は「TWILO」と同じ、「WOMB」とモバイル用のサウンドシステムを最大限に使いこなすため、今年1月から2月にかけてスティーヴのもとで「TWILO」にほぼ住み込み、サウンドシステムを学んできた。スティーヴ直伝のシステムを教わった日本人は、彼が初めてだという。スティーヴがサウンドシステムで世界のクラブシーンを変えたように、谷田部の登場で日本のクラブシーンも大きく変わるかもしれない。
谷田部は語る。「今、世界中で制作されているトラックの大半は、曲自体が大型のサウンドシステムを意識してつくられています。東京にもそのような音に対応できるサウンドシステム、そして、オペレートできるエンジニアが必要です。日本人は“横並び意識”が染み付いていて、他人の価値観が自分の価値観になってしまうところがある。でも、クラブのサウンドシステムだけは、自分で体感してみないとわからないと思います。本当にいいものに触れれば、他人の価値観に左右されない、世界に通用するような、本物をめざす志が出てくると思います。音は人間の価値観を変える力を持っているのです」。
世界最高のサウンドシステムを体感できる「PLANET TWILO」。次回は7月7日に、あのサシャを迎えて「Zepp Tokyo」で開催される予定だ。