先日の日曜日、代々木公園B地区(ステージ前)で開催されるレイヴに行くため、原宿駅を降りた。天気がよく、あたたかかったので、何の気なしに明治神宮に寄ってみた。春の陽射しが気持ちよく、参道の砂利道をのんびり歩き、明治神宮の本殿の前で手を合わせて参拝していると、とても気になる、そして、気にし出すと、とてつもなく不愉快になる音が耳に入ってきた。四つ打ちのドラムの音である。代々木公園B地区で行なわれているレイヴの音がここまで響いていたのである。神聖で荘厳で閑静な明治神宮は、ふだんなら音一つない。だから、余計にダンスミュージックの音が響いて聴こえるのだ。
横で拝んでいる人の話が耳に入ってきた。お父さんがガンで入院しているという。自分の力ではどうしようもなく、拝みにきたと話していた。そのそばには、車椅子のご老人がいた。足が不自由で、この日は、わざわざ、九州から参拝に来たという。こういう人たちが全身全霊で拝んでいる中に、レイヴの四つ打ちのリズムが容赦なく響いていた。
僕は、なんともいえない複雑な気持ちのまま、レイヴ会場へ足を運んだ。想像していたよりも意外と音は大きくはなかった。そんなに大きくもない音でも、明治神宮には、あれほど響いていたということに気づいたとき、とんでもないショックを感じた。なぜなら、僕自身、代々木公園B地区で大規模なレイヴを何度も開催してきたからである。しかも、この日より確実に大きな音で。風向きにもよるのだろうが、おそらく、その音は明治神宮にも届いていただろう。参拝に来ていた人たちの気持ちを考えると、心が苦しくなった。
僕は、1998年と1999年の「レインボーパレード」を主催した。若者たちに環境問題を訴えるために、クラブカルチャーと融合させて、当時の環境庁や通産省、文部省など、国の後援を受けて開催した。テクノ、エピックトランス、サイケデリックトランス、ドラム&ベースなどのジャンル専用のトラックにDJブースとサウンドシステムを搭載し、公園通りや明治通りを練りまわり、その後に数千人のクラウドが道路をダンスして歩く。
1999年のレインボーパレードの際、僕にとって、非常にショッキングな状況に出会った。約1年かがりで苦労して準備してきて、やっと訪れた「レインボーパレード」当日。明治通りを多くのDJトラックとクラウドたちが大音量でパレードしていると、ショッピングをしていた若者たちに「邪魔なんだよ」「うるさいなぁ」「最悪!」と言われたのだ。しかも、おしゃれっぽい女の子たちに…。僕はショックだった。そのような若者たちに環境問題のことを知ってほしいがために、大変な苦労をして、このパレードをやってきたのにもかかわらず…。環境問題をアピールするこのパレードも、結局は一部のクラバーのための楽しみにしかなっていなかったのだということに気づいた。その後、僕は「レインボーパレード」の企画をしていない。
先日、あるレイヴがあった。驚いたのが、確実に、今までレイヴに来ていたクラウドとは違う若者たちが多くを占めていたことだ。それは見るからに20才前後のレイヴ初心者で、男女とも、かなり威圧的な感じで、ラヴ&ピースというよりも、ナンパ&バイオレンスという感じ。新しいレイヴァーが増えることはうれしいことなのだが…。レイヴ会場での盗難、けんか、周りの民家からの苦情が増えたと関係者は話していた。エピックトランスの一大ブームによって、クラブ・ダンスミュージックがかなり一般化し、多くの若者たちがクラブに通うようになった。そして、レイヴにも足を運ぶようになってきている。この夏、レイヴを企画する場合は、相当な注意が必要と思われる。
全世界のダンスミュージックの象徴で、毎年100万人が集まるドイツ・ベルリンの「ラブパレード」が今年、ついに中止になった。1992年から始まり、9年続いたラブパレードは、今年は7月14日に予定されていた。ベルリン中心の公園ティア・ガルテンの植物が多くのレイヴァーたちによって荒らされたり、急性アルコール中毒やドラッグ中毒の問題、空き缶をはじめとするごみ問題など、毎年問題は絶えなかったのだが、今年はラブパレード反対派がついに実力行使。パレードの中心となるブランデンブルク門の勝利の女神や主だった道路を、この夏の毎週末、すでに押さえてしまったのだ。
ところが、7月21日に、ラブパレードは、U.K.のニューカッスルで、RADIO ONE主催で行なわれるという。しかし、もともと、ラブパレードは、1989年にベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一した、東西冷戦時代の終焉、平和の象徴として開催されてきた。U.K.で行なわれるラブパレードは、メディアに利用されたコマーシャルなものとして、世界の多くのクラブ関係者からは快く思われていないのが現実のようだ。
ここ2、3年、数万人を動員する巨大レイヴが連日のように開催され、地球上で最もレイヴが盛んだと言われているU.S.でも、レイヴに関して多くの問題が発生しているという。U.S.の中でも、特に、レイヴが発達している西海岸の、あるレイヴ関係者がこう話していた。
「U.S.のレイヴ・シーンは急成長しています。全米各地で大きなレイヴが毎日のように開催されています。多くのレイヴ・エージェンシーやレイヴ・プロモーターが活躍しています。最近、そのプロモーターたちの間で話題になっていることがあります。もともと、レイヴは大自然の中で気持ちよく音楽を楽しむために行なわれるべきものです。自然に感謝する気持ちが大切なのです。
しかし、実際は、レイヴが終わった後の会場の光景を見るたびに、私たちスタッフはゾッとするのです。開催前までは、生き生きとのびていた草や、きれいに咲いていた花は、ズタズタに踏みつけられ、立派な木の枝はあちこちで折られ、さらに、大量のごみが山積みになっているのです。
いったい、私たちは何のために多大な苦労をして、レイヴを開催しているのでしょうか。レイヴは自然破壊以外の何ものでもないと思うようになってきたのです」。
このような状況の西海岸では最近、新しい考え方が生まれてきているという。巨大なクラブの中に、レイヴと同じ、自然の中で味わうのと同じような気持ちのよい空間をつくろうというのだ。自然を破壊したり、人に迷惑をかけたりしないで、音楽を楽しみたいのなら、やはり、原点に戻るべきだろうというのだ。良質のサウンドシステムやライティングシステムは、やはり“ハコ”の中で最大限に生かされる。真のクラブの進化が今、西海岸から始まろうとしている。