第16回
ヨーロッパでは「大麻容認」の流れ、さて、日本では…⁉


クラブで好まれるドラッグとしてまず挙げられるのはマリファナ(大麻)だろう。個人が使う限り罰しないというオランダは“マリファナ天国”として有名だ。18歳以上の30g未満の大麻所持は訴追されず、「コーヒーショップ」と呼ばれるオランダの大麻販売店での1回の販売量が5g以下、18歳未満への販売禁止、公共の秩序を乱さないなどの条件を満たせば「容認」される。実は他のヨーロッパ各国でも最近、オランダの「大麻容認」に追随する流れが定着してきている。
ベルギーは少量所持や個人使用を、他者に迷惑をかけないなどの条件つきで訴追しないことを閣議で決めた。U.K.では少量使用は警告か罰金刑が義務づけられているが、最近、大麻使用者が雇用主に警告を犯歴として報告する義務を廃止した。ドイツでは少量所持は、第三者に迷惑をかけない、未成年者が関与しない、個人使用目的であるなどの条件を満たせば訴追を免れ、一部の州では販売も容認している。スペインでは公共の場などでの個人使用は罰金の対象だが、実際はほとんど取り締まりは行なわれておらず、イタリアでも1回目は警告、2回目以降は運転免許証の没収などが行政罰だが、実際はほとんど適用されていないという。フランスでは1999年、個人使用は訴追しない方針を政府が発表した。
EU諸国で「少なくとも一度は大麻を試した」ことのある人は約4,500万人だという。18歳では45%、15、16歳では25%に達しているという。これだけ数が多いと個人使用を取り締まろうにも警察の数が追いつかない。この30年間、厳しく取り締まりを行なってきた各国ではあるが、1990年代が最も大麻使用者が多かったことを考えれば、取り締まり施策は事実上失敗だったといえる。大麻を完全に駆逐できないというあきらめムードがヨーロッパ各国を「大麻容認」の流れに向かわせている。
そのようなヨーロッパの流れに対して、U.S.は依然、厳しい取り締まり施策を実行している。前ブッシュ大統領が強行した、大麻所持者は強制収容所に送られ、全財産を没収、その没収された財産を売却し、新たな強制収容所を造っていくという、あまりにも厳しい大麻取り締まりは、クリントン政権になってからは多少緩んだものの、再び共和党の現ブッシュ大統領になってからは、再度、強行な措置がとられつつある。
U.S.では第一次世界大戦後の化学工業が発達していた時代、それまで衣料や日用品の主な原料だった大麻(Hemp)に替わって化学原料が台頭してきた。リーバイスのジーンズも、もともとは馬車の幌を加工して作られていたのだが、その馬車の幌には大麻の繊維が使われていた。衣服やロープなどの生活必需品の多くが大麻から作られていたのである。化学繊維やプラスチックをはじめとする化学原料で作った製品を普及させたい化学原料業界は、当時のU.S.のマスコミなどのメディアや議員などへ働きかけ、「大麻には麻薬中毒性があり、いかに危険か、それに比べてプラスチックなどの化学原料で作った製品はいかに安全か」ということを説いてまわった。その結果、U.S.では「大麻は悪」とされ、その価値観はヨーロッパ各国、そして、アジアへと浸透していった。その最たる結果が共和党のとっている厳しい大麻取り締まりの措置である。
なんと、U.S.よりも厳しい措置をとっている国もある。韓国では、外国から国内への大麻の持ち込みが確認された場合は無期懲役。タイやマレーシア、オーストラリアでは死刑が宣告される。シンガポールのマフィアにだまされ、大麻をトランクケースに入れられ、オーストラリアへ入国しようとした日本人観光客が税関で捕まり、そのまま刑務所へ送られ、死刑を宣告され、全く無実なのにもかかわらず、未だ10年以上、オーストラリアの刑務所に入ったままで、裁判が続いている事件はあまりにも有名だ。
日本の大麻の取り締まりについてはU.S.を追随しているので、依然、厳しい状態が続いている。大麻の所持・譲渡・譲受に関しては5年以下の懲役、営利の場合(友達にあげて、お金をもらったという単純な場合でも)7年以下の懲役または200万円以下の罰金の併科が義務づけられている。毎年、2,000件を越える大麻取締法違反による検挙がある。例えば、大麻が「容認」されているヨーロッパから、ヨーロッパ人が日本のクラブに大麻を持ってきて、それを日本人がもらったとしよう。もし、そこに突然、警察の立ち入りがあり、持ち物を検査され、大麻をたまたま持っていても、5年以下の懲役になってしまうのだ。ヨーロッパでは「容認」されていても、日本では、まだまだ厳しい取り締まりが続いている。クラブでの大麻に関する、ちょっとした認識不足が“人生を棒にふる”危険性をはらんでいるのだ。