第22回
あなたはどこで踊りますか? 何を考えて踊っていますか?


みなさんはクラブに行ったら、どこで踊るだろうか?
「絶対にDJブースの前!」という人もいるだろうし、「スピーカーの前で音をあびながら」という人もいるだろう。「あちこち、ぶらぶらしながら」という人も。はたまた、アルコールを飲みながら、バーカウンターの前でなんとなく体をゆらしているのが好きという人もいるだろう。
ちなみに、僕はフロアの前のほうでガンガン踊るのが好きだ。DJのプレイする姿を見ていると、だんだんと心が高揚してくる。だから逆に、DJがノッているか、ノッていないかによって、だいぶ、テンションというのは違ってくるものだ。日本人のDJはノッている日とそうでない日の差はそれほどではないが、海外のDJの差はいたって激しい。ノッていないときは最悪だ。なんとなく気分的にノッていないとき、体調が悪いとき、東京でプレイできるのがうれしくてプレイ前にアルコールを飲みすぎて泥酔でDJブースに立ってしまってどうしようもなくなってしまったとき、今まで、いろいろなノッていない海外のDJのプレイを体験した。やっぱり日本人はまじめなんだなぁと思う。体調悪くても、高熱が出ても、点滴を打ってDJブースに立った日本人のDJを僕は何人も知っている。そのようにがんばっているDJをみると、こちらも、なんとなく心が盛り上がってくるものだ。
そうこうしていると、DJブースの前で踊っていたはずの自分が、ふと気づくと、いつの間にかフロアの中央付近で踊っているのを経験した人はたくさんいるだろう。自分では意図的に動いている意識はないのに、いつの間にか、思いっきり場所を移動している、あの不思議な感覚。実際には徐々に徐々に前のほうに人が入り込んできて、自分でも気がつかないうちに、踊りながら後ろに下がっているのだろう。あまりにも日常すぎて、友達たちとも話題にものぼったことがなかったが、昔から思っていたこの感覚を一度、文章にしてみたかった(だから、うれしー!)。僕はたいていクラブにいくと、2~3時間、平気で踊り続けるのだが、はじめのうちは、DJブースの前にいたとしても、その頃には多くのクラウドの頭を見ながら踊っているのである。 みなさんは踊っているとき、何を考えているだろうか。僕はリズムにノッて踊っている人を見るのが楽しい。心から楽しんで踊っている女の子、男の子を見ていると、自分の心もノッてくる、楽しくなってくる。おそらく、踊っているときというのは、みんな、自分の世界に入っているのだろうと思う。そのときは自分が主役なのだ。
僕はクラブというのは、みんなが主役の場所だと思っている。DJはもちろん、オーガナイザー、VJ、フライヤーのデザイナー、フライヤーを配るスタッフ、PA担当の人、ドリンクをつくってくれる人、そしてクラウド。そのパーティに携わった人たち全員が主役になれるのが本物のパーティだ。そういうパーティはよいヴァイブが生まれ、みんながハッピーになれるだろう。ライブや演劇のように、主役がいて、それをお客さんが見て楽しむというものとは根本的に楽しみ方が違うのだ。ライブや演劇のお客さんはあくまで受動的であるのに対して、クラブのクラウドというのは能動的でなければ楽しむことはできない。最近はDJばかりがフューチャーされる傾向にあるが、それはクラブの本質がわかっていないマスコミが報じる安易な表現にすぎない。だから、クラブ文化というのは、ヒーロー、ヒロインをつくりたがるマスコミ(メディア)とは根本的に相容れないのだ。
僕は、踊っているクラウドを見ながら、踊るのが好きだ。そう、僕にとって、この時点での主役は僕が見ているそのクラウドなのだ。クラブの真の主役はクラウドをはじめ、そのパーティに携わった人たち全員だ。この、クラブにとっての基本的な概念を知っている人が開催するパーティというのはよいパーティなのだろうと思う。そして、そういうパーティが増えていってほしいと思う。それが良いクラブシーンの最も基本的なことなのだから…。