今年の桜の開花の早さには、誰もが驚かされた。東京では、3月23、24日の土日が花見のピークだった。僕が今年、最も早く、東京で桜の花が咲いているのを確認したのは、3月15日の木曜日、Tシャツ一枚でも暑いと感じた夏みたいな日差しの日、本誌「FLOOR-net」で大活躍中のフォトグラファー、亀山野之子ちゃんと武道館の前のレストハウスで打ち合わせをしているときだった。武道館の横の大きな桜の木の花が、正午ぐらいには四つほど咲いていて、「あれ~!もう桜、咲いちゃってるよ!」と思わず、大声で叫んでしまったが、約2時間後の打ち合わせの帰りには、なんともう数えられないぐらい何十個という桜の花が咲いてしまっていた。桜が咲くと、長かった冬が終わり、ようやく春の訪れを感じ、心躍るものだが、あの瞬間は、あまりにも異常な開花の早さに、何だかゾッとしたのをおぼえている。ふつう、桜といえば、入学式を思い浮かべるが、今年は卒業式にはもうすでに満開だった。そして入学式の頃には、もう葉桜になってしまっていて、ふつうはゴールデンウィークあたりに新緑がきれいなのだが、今年は4月のはじめにはもう新緑づいていた。
さらに、今年の桜は、花の色が白っぽかったことに気づかれただろうか。「桜色」というぐらい、桃色なのが、桜の花の本来の色なのだが、今年の桜の花の色は明らかに白かった。実は、これには原因がある。今年はあまりに異常だったが、実は、桜の花の開花は年々、早まってきている。早まってきているということは、気温が上がっているということだ。暖かいから、桜は「もう咲いてもよい頃だな」と判断して、花を咲かせる。その時期が早いと、花の色素が十分に花びらに行き渡らなく、その結果、白っぽくなってしまっているのである。僕たち人間の引き起こしている環境の悪化による地球温暖化のために、本来の桃色のきれいな桜を見ることができなくなってしまっているのである。何とも悲しいことではないか。
この地球温暖化、実は、すさまじい勢いで進行中である。1月21日の月曜日、東京で、真冬にしては記録的な集中豪雨と雷が一日中続いたのをおぼえているだろうか。1月に、あのような夏のにわか雨のような豪雨があること自体、異常だし、しかも、雷で停電することなど、本来の東京ではあり得ない。ここ数年、一年を通して、急に雨が降ったり、急に止んだりして、濡れてしまった人は結構、多いのではないかと思う。
実は、1998年の夏から、東京はフィリピンなどと同じ、亜熱帯という気象カテゴリーに入ってしまっているのだ。もちろん、地球温暖化が原因である。急に降ってきた雨の雨粒が異常に大きいことにお気づきだろうか。あれは、東南アジア特有の「スコール」の雨粒の大きさと同じである。地球温暖化とは地球全体が温暖になることではなく、局所的に気候が極端になるということである。例えば、東京はフィリピンと同じように亜熱帯っぽく暖かくなり、雨の量が増える。札幌はロシアと同じように寒くなるといわれている。ここ数年、世界各国でも「観測史上初の~!」というフレーズのニュースが非常に多いことにお気づきだろうか。ニューヨークでは40度の猛暑になったり、モスクワでは逆にマイナス40度の極寒になったり…! また、記録的な集中豪雨や豪雪、はたまた旱魃など、明らかに地球全体がおかしくなっている。
僕もクラブ帰り、急に降ってきた大雨に濡れ、何度、びしょびしょになって帰ったことか。そして、風邪をひいてしまうのである。僕たち、人間が自然を大切にしなかったツケがこういう形で返ってくるとは、なんとも皮肉なものである。「フジロック・フェスティバル」のごみのリサイクルシステムの構築の基礎を築いたり、「レインボーパレード」や「ノーモア・ダイオキシン・ナイト」、そして「THINKING EVOLUTION」など、10年来、クラブカルチャーと環境問題の融合を進めてきた僕にしてみれば、今年に入ってからの数々の“異常”は、環境問題への敗北として、失意のどん底に陥っている今日この頃である。
そんな最中にも、鼻水が出てきて、くしゃみをしたりしている僕。そう、花粉症である。今や日本国内で1,000万人以上が苦しんでいる花粉症。ついに今年からなってしまったという人も結構、多いのではないだろうか。僕も花粉症なのだが、今年は特にひどく、花粉がのどにまで付着してしまい、一週間、発熱して寝込んでしまった。もう、たかが花粉症とはいえない。前の年の夏が暑ければ暑いほど、次の年の花粉の量は増えるといわれている。去年の夏はまさしく記録的な猛暑の日が続いたので、今年は例年の4倍以上の花粉が日本中に吹き荒れたようだ。
花粉症の最大の原因となっているのが、杉の花粉。杉も夏に暑いと、太陽からの栄養を十分に摂ることができ、その次の年の春には、より多くの花粉を飛ばす。現在、杉は日本中のいたるところにあると言っても過言ではない。もともと、こんなに多くはなかったのだが、戦後、日本の復興のために木材の需要が高まることを想定して、成長の早い杉を日本中に植林した。ところが、成長した杉を木材として使えるようになった頃には、国内の木材よりも、中国や東南アジアからの木材のほうが価格が安くなってしまっており、価格の高い国内の杉は使用目的もないまま、ほぼ放置されているのが現状である。その杉の花粉に日本中の人たちが悩まされているのである。
しかし、この花粉症、別に杉の花粉だけが原因なのではない。最大の原因は、環境の悪化である。車からの排気ガスや工場からの排煙などにより、日本中の空気は悪化している。その悪い空気を僕たち人間は吸っている。人間の鼻は、悪い空気を吸い込むと、鼻の細胞がそれを“悪いもの”と認識し、攻撃したり、分解したりして、体内への進入を防ぐ。その細胞が戦った“死骸”が鼻水として出てくるのである。日本の空気は汚れている。人間の鼻の細胞にとってみれば、常に、その悪い空気が体内に侵入してくるのを防ぐために戦っている状態が続いているのである。そうすると、鼻の細胞は“戦い癖”がついてしまうのである。その結果、体に害がない杉の花粉さえも、車の排気ガスと同じように、“悪いもの”と認識してしまい、攻撃し出すのである。その細胞の“死骸”が鼻水として出てくるのである。さらに、人間の細胞は、体内に入ってこようとする細胞の謝った認識による敵である杉の花粉を体内から排除するために、くしゃみもさせるのである。目がかゆかったり、涙が出てくるのも同じ原因による。要するに、花粉症は、杉が悪いのではなく、人間が生み出している、車の排気ガスや工場の排煙などによる空気の悪化が原因なのである。
以前、僕は春先にパーティを開き、DJをしていたときに、おもいっきり花粉症によるくしゃみと鼻水が止まらなくなり、全くミックスができなくなってしまい、さんざんな目に遭ったことがある。DJブースでDJがくしゃみをしたり、鼻をかんでいる姿はなんとも情けないものだ。僕はあれ以来、春先にDJをやるのはやめようと心に誓った。花粉症のDJのみなさんはどうされているのだろうか。
桜の異常な開花の早さも、集中豪雨も、花粉症も、全て僕たち人間が引き起こしてきた環境の悪化が原因である。クラブで末長く楽しむためにも、まっとうな生活を送るためにも、すでに誰の身にもふりかかっている、この深刻な環境の悪化は、もう避けて通ることのできないレベルにまで達してしまっているようである。