みなさんは、一番初めに行ったクラブのことをおぼえているだろうか?
最近では、トランスのパーティとか、少し前ならテクノではまったとか、もう少し前だとハウスのクラブとか、その人、その時代によってジャンルもさまざまだと思う。僕は、16歳のときに、当時、西麻布にあったクラブに行って、衝撃を受けた記憶がある。当時、高校一年生、ハイエナジーや初期のユーロビート全盛のバリバリ80年代のディスコには通っていたが、初めてクラブに足を踏み入れたときは、それとは全く違った衝撃を受けたのをおぼえている。まず、そこにいた人たちのファッションである。みんな、とてつもなくおしゃれで、かっこよくて、そして、大人に見えた。自分もこういう大人になりたいと思った。かかっている曲も、ニューウェーブやダブ、そしてソウルなど、それまで耳にしたことのない、かっこいい曲ばかりだった。それから、僕の、今に至るまでの延々と続くクラブライフが始まったわけだが、今に思えば、もうすでに17年近く前になるのだなぁと実感する。
最近のトランスブームで、若い子たちがクラブに大挙して押し寄せるようになった。それによって、クラブシーンに活気が出てきて、盛り上がっているのは確かだ。クラヴァー人口も圧倒的に増えた。しかし、その一方で、こんな声も聞かれるようになっている。「最近のパーティは、いいDJが来日するけど、子どもばっかりで楽しめないっ!」。今のクラブシーンを支えてきたのは、1995年のテクノブームによって増殖したクラヴァーたちであることは間違いないが、彼らは、さらに若い10代の子たちがクラブを占拠し始めたことに明らかに不快感を持っているようだ。大きなトランスやプログレッシヴハウスのパーティに行くと一目でわかるが、確かに今までの客層とは違っていることに気づく。今まで、クラブシーンを支えてきたクラヴァーたちの姿が減っているのだ。
要するに、今、日本のクラブシーンは世代交代の時期なのだと思う。今までのクラブシーンを支えてきた1995年のテクノ世代以降のクラヴァーたちも、それ以前にクラブシーンを圧巻していた1990年のハウス世代のクラヴァーたちから見れば、当時は子どもだったわけであり、新興勢力に他ならなかったわけだ。こういうことを考えると、いつも思うことがある。世代交代が起こってこそ、進化があるのだ。新しい、若い子たちが育たない文化は、消滅するしかないのだから…。だから、今、少し大人になったクラヴァーたちは、今度は自分たちが楽しめる、少し大人のクラブシーンを新しく築くときなのだろうと思う。
僕は、1995年頃、テクノブーム全盛の頃、いろいろな高校の文化祭に招かれて、出張DJをしていたことがある。ターンテーブルやミキサーをはじめ、アンプやスピーカーなど機材一式を車に載せて、都内の高校の文化祭へ出向き、教室をクラブにして、テクノやハードハウスなどをプレイしていた。クラブに通っている高校生たちはDJブースの前で盛り上がってくれるが、その他のふつうの高校生たちのほとんどは、クラブに行ったことがないということは、そのおずおずとした様子一つとってみればすぐにわかる。それでも、だんだんと体がリズムに乗ってきて、最後には自分を解放して、楽しく踊っている高校生たちの姿を見ると、「クラヴァー一人完成!」と、自分一人で納得して、笑顔でうなずいていたものだ。その後、「ハーレム」では、日曜日の昼間、高校生を対象にしたノンアルコール、ノンスモーキングのHIP HOPのパーティがひんぱんに開かれていた。これが盛況で、今のHIP HOP人気の下地になったことは間違いない。いつの時代、どんな文化、どんなシーンでも、若者層の開発は、シーン発展には欠かすことのできない重要なファクターなのだ。
ドイツでは、10歳の誕生日に、ターンテーブルとミキサーのDJセットを親から買ってもらうのが習慣となっている。日本でいうところの、プレイステーション2などのゲームを買ってもらうことと同じようなことかもしれない。ドイツでは、10~12歳くらいのうちにミックスの特訓をし、13歳になる頃には、自分たちでテクノやハウスなどのパーティを開く。DJのうまい子はやはり、クラスの人気者になったり、女の子にもてたりするらしい。さすが、テクノ大国ドイツ!こうして、良質で素晴らしいDJが、10歳の頃から段階をふみ、“培養”されているわけだ。
次世代型ドラム&ベースのパイオニアの一人、ユージュアル・サスペクツのDJキートンは、ロンドンのクラブで、なんと12歳でDJデビューした。学校や仲間うちのパーティではなく、れっきとした大人のDJが回すクラブでだ。日本ではこのようなことは考えられないが、さすがロンドン!と唸らされてしまう。DJキートンは今だ若干22歳だが、もうすでに10年のキャリアをもっていることになる。このような天才が生まれる素地がロンドンにはあるということだし、その素地が次々と新しいクラブシーンを生み出しているのだろう。
日本にも段階を経た、DJやクラブシーンを育てるシステムが必要なのではないかと思う。日本の風営法では、18歳未満のクラブの入場は禁止されている。それでも、みんな、年齢をごまかして、何とか入場しているのが現状であろう。かく言う僕も、16歳からクラブに通っていたわけで、法律を犯していたことになる(さすがにもう時効だろうけど…笑!)。厳しいクラブでは、入場の際、身分証明証の提示を求められたり、生まれた年と“えと”を言わされることもある。「ハーレム」での日曜日の昼間のノンアルコール、ノンスモーキングのHIP HOPのパーティのように、健全に高校生の頃から、テクノやハウスで踊る楽しさを知ることが、今、とても必要なのではないかと切に思う。本誌「FLOOR-net」の読者のみなさんは、おそらく一番最初のクラブに行ったときの印象がよく、その後、クラブにはまった人たちだろうと思う。一番最初にクラブに足を踏み入れたときのあのドキドキとワクワクを、一人でも多くの若い子たちに体感させてあげたいと思っているのだが…!