ある友達が、いつもと同じようにクラブに遊びに行った。朝方、家に帰って来て、いつもと同じようにベッドで眠った。その日の夕方、目が覚めると、一つだけ、いつもと違うことに気がついた。耳鳴りが止まない。クラブ帰りには必ずといっていいほど、耳鳴りはするものだ。あれだけの大音量の中に一晩中いるのだから仕方ない。しかし、ふつう、多くの人たちは、だいたい一度眠れば、その耳鳴りは止むはずであろう。しかし、その友達の、その日の耳鳴りは止まなかった。しかも、片方の耳だけが…。「変だな」とは思いつつ、病院に行こうかなと思っても、その日はちょうど土曜日。翌日も日曜日で病院は休み。時間がたつにしたがって、耳鳴りはいつものクラブ帰りに鳴る耳鳴りとは違うものになっていき、まるでテレビが終了したときの“砂嵐”のような「ザァーザァー」という音に変わってきた。しかも、その音が次第に大きくなり、それにしたがって、ふだん、聞こえるはずの日常の音が聞こえづらくなってきたのだ。なんだか、不安になってきたその友達は、月曜日の朝、早速、病院にかけこんだ。そして、医師に診断された病名が、「突発性難聴」。なんと、すぐに治る特効薬はないという。とりあえず、点滴を打つために、数日間、病院に通わなければならなくなった。
実は、その友達、いまだに「突発性難聴」は治っていない。夜、静かな自分の部屋で眠るときにも、ずっと耳鳴りがしているため、ノイローゼになってしまいそうだと言っていた。日常生活でも片方の耳が非常に聞こえづらいので、平行感覚がおかしくなったり、気持ち悪くなったり、頭が痛くなったりしてしまう。その友達の担当の医師が言っていたそうだが、最近、クラブの通いすぎで、この「突発性難聴」になってしまう人が急増しているそうなのである。
そういえば、他にも、僕の友達で1999年に突然、この「突発性難聴」になってしまい、3つの大学病院に通ったが、結局、治らず、今では針や気功など東洋医学による治療を試みているが、3年たった今でも治ってはいない。その友達は3年間、ずっと、クラブ帰りのあの耳鳴りがしたままなのである。
実は、鼓膜をはじめ、耳の多くの器官というのは、神経そのものといってよい。神経によって、耳の器官は大きな影響を受けるのだ。「神経によって」とは、いわゆる疲労やストレスのことである。例えば、仕事が忙しく、体に疲れがたまっているときに、気晴らしにクラブに行って、はじけよう!と思って、クラブに遊びに行くようなときに、突然、「突発性難聴」になりやすいという。
例えば、ある友人は突然、片方の耳が痛くなりはじめ、その激痛のため、翌日、病院に行ったら、なんと鼓膜が破れていることがわかった。即、入院と手術の準備がなされ、その日から約2週間、入院した。その友人は仕事がら、海外への出張が多く、飛行機に乗ることが多かった。しかも、仕事が相当、忙しく、いつも空港に着いて飛行機に乗るまでバタバタと仕事に追われていて、飛行機の中でゆっくり寝るのが習慣になっていた。要するに、そのような積み重ねのストレスが耳に過度の負担をかけ続け、ついには鼓膜が破れるという事態にまで発展してしまったのである。しかも、飛行機に搭乗中の気圧の変化は、ストレスで弱っている鼓膜には致命傷といえる。国土の広いU.S.ではビジネスマンが日常生活でふつうに飛行機を使う。過度なストレスの中で飛行機に搭乗すると、耳に影響を及ぼす。U.S.では、多忙なビジネスマンの「突発性難聴」や、突然、鼓膜が破れるということが頻繁に起き、社会問題になっているそうだ。それだけ、耳や鼓膜はストレスに弱いということなのである。
実際、大音量のサウンドシステムで一晩中、盛り上がるのが、クラブの醍醐味だ。あの大音量を味わいたくて、多くの人たちがクラブに通う。確かに、あの大音量が耳にとって、よいはずがない。耳に大きな負担をかけているのは間違いない。だからといって、クラブ通いはやめられない。
ニューヨークの伝説のクラブ「TWILO」に設置されていた伝説のサウンドシステム「PHAZON」は、ベトナム戦争でレーダー管理をしていたという経歴を持つ、世界最高のサウンドシステム・エンジニア、スティーヴ・ダッシュが生み出した、世界最高のサウンドシステムだといわれている。何が世界最高なのかといえば、音が良いのはもちろん、ニューヨーク・ハードハウス特有の8時間や12時間といった、DJの超ロングプレイを耳にしていても、耳に負担がかからない、人間工学に基づいて、緻密に設計された“耳に優しい”サウンドシステムなのである。その「PHAZON」サウンドシステムを導入しているのが、渋谷のクラブ「WOMB」であり、たしかに「WOMB」で一晩中、踊っていても、朝帰る時に、他のクラブで踊って帰るときよりも、耳鳴りの度合いは明らかに少なく感じる。
この「突発性難聴」の急増は、クラブシーンにとって、死活問題になりかねない、無視できない大きな課題だ。もし、クラブの通いすぎで「突発性難聴」になるといったことが大きく表面化して、社会問題にまでなったら、それこそ一大事である。その最悪の事態を招かないためにも、本誌「FLOOR-net」読者に次のことをお願いしたい。
過度の疲労やストレスがたまっているときには、クラブは控えてほしい。
もし、一日寝ても、クラブ帰りのあの耳鳴りが止まないときには、すぐに病院へ行ってほしい。
スピーカーやサウンドシステムをつくるメーカーの方には、「突発性難聴」などになりにくい、“耳に優しい”製品を開発してほしい。
クラブ経営者の方には、そのようなスピーカーやサウンドシステムを積極的に導入してほしい。
この問題はクラブシーン全体で、早急に取り組まなければならない、大きな課題だと思う。