最近、J-POPのアーティストたちのライヴに行く機会がたまたま続いた。「ZEPP東京」や「赤坂BLITS」、「渋谷AX」、そして、「リキッドルーム」など、クラブのパーティ以外の、いわゆる深夜ではない、健全な夜の時間に、このようなホールに行ったのは、久しぶりだった。
会場前には、ホールの入口付近で、多くのファンたちがグッズを買ったり、ジュースを飲んだりして待っている。そして、会場時間になると係員が整理番号を読み上げ、その整理番号を持っているファンたちが一列に並ぶか、または、その呼ばれた番号順に会場に入っていく。おそらく、ファンクラブの会員やチケットぴあなどで頑張って早くチケットをゲットした人たちが早い整理番号を持っているのだろう。そして、入場するや否や、みんな、ものすごい勢いでフロアめざして走っていき、おのおの、お気に入りのアーティストをなるべく近くで見るために、できる限りステージに近いフロアの前のほうに走っていく。後から入ってくるファンたちもみんな、同じような行動に走るため、次から次へとフロアの前のほうが、すし詰め状態になっていく。
多くのライヴが、開演のおよそ30分ぐらい前の開場時間が多い。要するに、早い整理番号をゲットし、ステージの近くに来れたファンほど、開演するまでの、あのフロアの前のほうでの、すし詰め状態に長い時間、耐えなければならないのだ(あるライヴにいっしょにいった友人は、すし詰め状態の中、どうしてもトイレが我慢できずに、その場を離れてしまったのだが、ついにライヴが終わるまで、もう二度と、もとにいたステージに近いフロアの前のほうに帰ってくることはできなかった。せっかく、頑張って早い整理番号をゲットしたにもかかわらず…である、笑)。
トイレに行くこともできない、すし詰め状態の中、30分以上、立ったままの状態が続く中、たいがいのライヴは開演時間ぴったりには始まらないものである。およそ、10分から20分ぐらい、下手をすると30分以上遅れて、ようやく、ライヴがスタートする。アーティストがステージに登場すると、それまでのすし詰め状態だったステージ近くのフロアに、さらに、驚くべき大波が押し寄せる。後ろのファンたちも、なるべく近くでアーティストを見たいことから、ドバーッと、みんな前のほうへ押し寄せて来て、もう、ステージのそばにいるファンたちは、もみくちゃ状態になる。そんな中、ライヴが始まるのである。
J-POPの中でも、盛り上がり系の曲のときは、いくら、もみくちゃ状態の中でも、みんなで一体となって盛り上がって、それでも楽しいが、つらいなぁと実感するのは、バラードの曲のときである。みんな、汗だくになっている中、急に静寂が訪れ、それでも、すし詰め状態のまま、立ち続けた状態のまま、聴かなければならないバラード。しかも、CDで自宅や車の中、もしくは外でヘッドフォンで聴いているときは涙が出てくるぐらい、ジーンと感動するバラードも、フロアの中のあの、すし詰め状態の中で、しかも、立ちっぱなしの状態で聴いても、感動することはできない。せっかく、アーティストが“生”で目の前で歌っているのに…である。
さらに、つらいなぁと実感するのは、バラードでもない、盛り上がり系の曲でもない、どちらかというとミディアムテンポの曲のときである。下手をすると、みんな、フロアで立ちんぼのまま、手拍子をしたりする。またまた、アーティストも調子に乗って「両手を上げて!こうやって、大きく横に振って~!」などとファンたちに強要し、無理矢理、会場が1つになるように仕向けたりする。純然たるクラヴァーだと自負している僕は、さすがに、ちょっとつらいなぁと思ってしまうわけである。
さて、1980年代以前、J-POPは歌謡曲と呼ばれ、ライヴはコンサートと呼ばれていた。その時代は、歌謡曲のコンサートといえば、「渋谷公会堂」や「NHKホール」、「新宿厚生年金会館」などがそのメッカであった(当然、今でも十分に存在しているが…!)。1人1人、席があり、ファンクラブや整理番号の早い人はステージに近い前の席をキープできる。開演前は席に座ってゆっくりとジュースを飲んだり、席が決まっているので、安心してアーティストのグッズを買いに行ったり、トイレに行ったりすることができる。開演してコンサートが始まっても、盛り上がり系の曲のときは、立ってジャンプしたりして、バラードの曲のときは、席に座って、その曲をじっくり堪能することができる。
80年代後半以降、「川崎チッタ」や「リキッドルーム」などのオールスタンディング・スタイルのホールが次々とオープンし、歌謡曲はJ-POPとなり、コンサートはライヴとなっていった。海外のアーティストたちのライヴの様子が、席が決まっているスタイルではなく、オールスタンディング・スタイルが多かったことから、そのほうがカッコいい!盛り上がれる!という流れで、日本でもオールスタンディング・スタイルのホールが増え続けてきた。18時とか、早い時間にはJ-POPや海外のアーティストたちのライヴが行われ、深夜の時間には、クラブのパーティが行われるという形式もすっかり定着した。
僕は正直言って、何年も、深夜のクラブのパーティにしか行っていなかったのだが、最近、たて続けに早い時間のJ-POPのライヴに行って、いささか、疑問を抱かざるを得なかった。せっかくのフロアでのライヴなのに、踊っている人はほとんどいないし、というか、まず、すし詰め状態で体を動かすことすらできない。バラードの曲のときのつらさ、そして、ミディアムテンポの曲のときの“寒さ”などなど、総合的に考えると、J-POPには、やはり、「渋谷公会堂」や「厚生年金会館」などの席が決まっている会場のほうが合っているのではないかと思ってしまうのである。「J-POP」と、その呼ぶ名前は変わったかもしれないが、それ自体はやはり「歌謡曲」なのだろうと思う。そんな折り、今度は「日本青年館」でのJ-POPのアーティストのライヴ(コンサート!?)に行く機会があった。自分の席が決まっているというのは、こんなにも楽で、有り難いものだということを実感した。
近年、惜しまれつつもクローズしてしまった、新宿にあった「日清パワーステーション」は、1階がオールスタンディングのフロアスペースになっていて、2階が食事をしながら、ステージを見ることができる着席のスタイルになっていた。今、改めて思うと、J-POPには、そのようなスタイルが1つの理想形だったのかなぁと実感する。今後、「パワーステーション」をさらに進化させたような、新しいJ-POP向きの快適なライヴスペースが登場することを願うばかりだ。