「新人の女性アーティストを売り出すには、まずはクラブシーンを狙うこと」。これは音楽業界では今や常識となっていること。デビュー曲の、クラブのフロアで盛り上がりやすいようなリミックス・ヴァージョンを国内外の有名なDJやアーティストにつくってもらい、カップリングとしてリリースし、そのアナログ盤をつくり、クラブのDJたちにばらまき、クラブのフロアの現場からヒットを生んでいくという構図は、いつから定着し始めたのだろうか。
この方式が最もピッタリうまくはまり大成功し、その座を不動のものにしたのが、宇多田ヒカルだといえる。1998年リリースの宇多田ヒカルのあのデビュー曲「Automatic」がそうだ。オリジナル曲はR&B調で、当然、R&Bやソウルのクラブやパーティーなどでプレイされてはいたが、それらのシーンの規模はそれほど大きくはなかった。その地位を決定的にしたのは、ニューヨーク・ハードハウスシーンの第一人者、ジョニー・ヴィシャスによる「Automatic」のハードハウス・ヴァージョンだった。ダウンテンポで、いかにもR&B調のオリジナル曲とは趣を異にした超ノリノリのダンスチューンのそのヴァージョンは早速、アナログもリリースされ、多くのDJたちの手に渡り、さまざまなクラブやパーティーでヘヴィプレイされ続けた。このヴァージョンの大ヒットにより、次のセカンドシングル「Movin’on without you」の方向性が決まったとさえいわれている。
さらに、540万枚と、日本音楽史上最も売り上げた記念碑的アルバム「FIRST LOVE」のエンドタイトルには、まさしくその「Automatic」のジョニー・ヴィシャスによるハードハウス・ヴァージョンがボーナストラックとして収められている。宇多田ヒカルの「Automatic」での大成功以降、実に多くの女性新人アーティストが、クラブシーンをその第一の舞台として、大きく世の中にはばたいていっているのである。