本誌「FLOOR-net」の読者のみなさんは、今、原宿、渋谷、代官山などの東京の街の平日の夜が、ゴーストタウンと化している現状をご存知だろうか。原宿や、渋谷の特に公園通りの坂上の老舗のカフェなどは、従来までは23時頃までオープンしていたのだが、最近、軒並み営業時間が短くなってしまい、21時に閉店してしまうショップが急増している。夜の食事後、お茶をするお店を探すのが、とても困難なのである。それと同時に、平日の夜のクラブでのパーティへの人の動員も、とても難しくなってきている。なぜ、このような状況になってしまったのだろうか。ここでは、その原因を探ってみたいと思う。
1980年代後半のバブル景気の崩壊後、日本は“空白の10年”と呼ばれる、それまで日本人が経験したことのない、長期の不景気の時代に突入した。そこから脱出するために、日本のあらゆる企業は、リストラを繰り返した。特に、人件費を削減するために、40代、50代の中間管理職層を各企業は、こぞってリストラした。その結果、一部の企業役員と、30代、20代の若手社員のみが残った。役員は企業の純利益を確保するために、それまで、50代、40代、30代、20代で、部長、課長、係長、社員で構成されていた各プロジェクトのチーム編成を、30代と20代の若手のみで遂行するようにシステムを切り替えた。このことにより、企業の再生を担うリストラ戦略は成功し、人件費を抑え、純利益を確保することができた。これにより、日本の企業は再生を始め、日本経済が“空白の10年”からやっと抜け出し始めたのである。この戦略によって、成功した企業が“勝ち組”と呼ばれているのである。この勝ち組の戦略を成功例として、今、日本の企業の多くが、このようなシステムを導入し始めている。
しかし、それによって、大きな“ひずみ”も生まれ始めている。50代、40代のベテラン社員の経験を全く生かすことができず、未経験者の集まりである、その新しい若手のみのシステムは、当然、その社員たちの仕事量の増大と労働時間の急増を引き起こしている。今、大学生の大企業への就職状況は好調となりつつある。これまで、夜の街で遊んでいた若者層が、こぞって就職して、夜遅くまで残業して、仕事をしている現状がある。夜の原宿、渋谷、代官山など、東京の街から若者たちが消えてしまったのは、実はこのような原因があったのだ。
果たして、このままの状態でよいのだろうか。「転換期の日本の課題」、次号もさらにさまざまな問題について考えてみたいと思う。