都内の某有名大型クラブの関係者から非常に興味深い話を聞いた。そのクラブでは、フライヤーを持参したお客さまには入場料をディスカウントするサービスを行っているが、最近、フライヤーを持参するお客さまが極端に減ってきているというのだ。そのため、ここ最近、いろいろなショップや他のクラブに配布するフライヤーの数を減らしているという。そのクラブでは、もう一つ、入場料をディスカウントするサービスを行っている。それは、そのクラブのウェブサイトにあるページをプリントアウトして持参してもらうのである。実は最近、このウェブサイトのページをプリントアウトして持参すれば入場料がディスカウトされるというサービスを使うお客さまが急増しているという。
長年、クラブの宣伝方法といえば、“フライヤー”といった時代が長く続いたが、最近では、どうもその状況に変化が起こり始めているらしい。従来、クラブのフライヤーは、レコードショップやさまざまなショップ、そして、他のクラブにおかれ、若者たちはそれをゲットして情報を得ていた。しかし、ここ最近の若者たちはあまりにも多忙なため、レコードショップやさまざまなショップに足を運ぶ機会がめっきり減ってしまっているのだ。平日の夜の渋谷や原宿、下北沢を歩いてみれば、それは一目瞭然だ。以前は、若者たちで賑わっていた街並みが、今や、閑散とした状態だ。その原因が、ここ数回、この連載で述べているように、若者たちを取り巻く労働環境の著しい変化なのである。
1980年代後半のバブル景気の崩壊後、日本の経済は“空白の10年”と呼ばれる長期の不景気時代に突入した。そこから脱出するために、日本のあらゆる企業はリストラを繰り返した。特に、人件費を削減するために40代、50代の中間管理職層を、各企業はこぞってリストラした。その結果、一部の企業役員と、30代、20代の若手社員のみが残った。当然、仕事量、労働時間共に倍増し、18時や19時には帰ることはできず、22時、23時まで残業しなくてはならなくなった。そのため、平日の夜にショッピングに行くことができなくなった若者たちが今、急増しているのである。
彼らはどこでショッピングしているのか。そう、インターネットである。この10年、日本政府が、アメリカや韓国に遅れをとるまいとして、必死で“IT化”を叫び、実践してきたが、なかなか進渉しなかったわけだが、皮肉にも日本の真のIT化は、このような、決して幸せとはいえない形で、今、実現されようとしている。各企業としては、40代、50代をリストラした結果、30代、20代の社員に、今までよりも高い給与を支払えるようになった。若者たちの収入は大いに増えているのである。そのため、クラブで遊ぶことができるお金も増えている。しかし、そのクラブのパーティ情報を得るのが、従来までのショップにおいてあるフライヤーを集める形では困難になってきたのである。24時間、会社に居ながらにして情報を得、しかも、ディスカウントチケットまで得ることができるインターネットを、断然、彼らは利用するようになってきている。最近の、ソフトバンク、楽天、ライブドア等のIT系企業の大躍進の原動力は、実は、このような社会状況を背景としているのである。今や、本もCDもDVDも、電化製品、洋服にいたるまで、インターネットで買い物する若者たちが急増している。
しかし、彼らの多くは、決して、好きでインターネットでショッピングをしているわけではない。できれば、平日の夜、仕事帰りに友達と会い、いっしょにレコードショップを周り、いっしょに晩ごはんを食べながら、いろいろ、おしゃべりしたいと思っている。しかし、景気が回復してきた日本経済において、企業の雇用状況は極めて良好で、若者たちは、望めば、大手企業に就職できる状況になってきた。その中で、過度な仕事量とノルマを与えられ、日々、残業を余儀なくされている若者たちにとってみれば、平日の夜のショッピングなど、無理に等しい。会社で、もしくは、夜中に帰宅した自宅で、インターネットで買い物をするのがやっとという状態なのだ。
果たして、このままの状態でよいのだろうか。「転換期の日本の課題」、次号もさらに、さまざまな問題について考えてみたいと思う。