前回のこの連載で、最近、僕のまわりで、うつ病、パニック障害などの精神的な病になってしまっている友人が急増しているという話を述べた。前回は主に、大企業に勤めている人たちが、労働時間の異常な長さ、異常なまでの金銭的ノルマなどによって、精神的な病に陥っており、それを裏付けるように、国のある機関の調査によると、大手企業の就労者における、精神的な病で通院、もしくは、カウンセリングを受けている人の割合は、なんと、7.6%にも達しているというデータもあるということについて触れた。
今回は、さらに、本誌「FLOOR-net」の読者に、より近い話である。先日、渋谷にある、ある専門学校の関係者から話を聞いた。その専門学校には、18歳から20代前半までの約220名の生徒がいるが、その中で、精神的な病で投薬、もしくは通院している生徒の数が、なんと44名もいるという。およそ、5人に1人が精神的な病で悩んでいるというのだ。その学校では、授業を教える講師の他に、インストラクターと呼ばれる生活指導員をつけ、生徒たちの心のケアにあたっている。
驚くべきことに、その生徒たちのほとんどが、いわゆる“ギャル”なのだそうだ。真っ黒に日焼けし、バッチリメイクで顔を覆い、R&B風な露出度の高いファッションで、ヒールの高いブーツやミュールを履き、街を徘徊している。実は、このような格好をしているのには理由がある。自分自身の弱い心を隠そうとしているのだ。挑発的で攻撃的な装いで、自分の心を守ろうとしているのだ。また、真の自分らしさ、オリジナリティを見つけようとはせず、まわりに流されていることで、安心感、共有感を抱いているともいえる。問題は、このような若者たちの多くが、しかるべき病院から薬の投与は受けているものの、自分に合ったカウンセラーとは出会えていないという現実があることだ。いくら、薬を服用したとしても、それは精神的な浮き沈みを抑える“一時しのぎ”に他ならず、根本的な解決にはならない。やはり、精神的な病のプロフェッショナルである、しかるべき、カウンセラーに診断してもらうことが大事なのだ。
では、その若者たちはどうして、そのような病に陥ってしまったのだろうか。実は、その原因の多くが家庭にあるという。まず、それらを関連づける社会背景の話をしよう。1980年代後半のバブル景気の崩壊により、日本の中小企業の多くが倒産した。やりくりに困窮した経営者たちの実に多くが、その尊い生命を自ら絶った。JR中央線をはじめ、多くの鉄道で人身事故が多発するようになったのはこの頃からだ(いわゆる“飛び込み自殺”)。また、長期の不景気時代から脱出するために、あらゆる企業がリストラを繰り返した。特に、人件費を削減するために、40代、50代の中間管理職層を、こぞってリストラした。借金にまみれた中小企業の経営者や、リストラされた中間管理職層は年齢的に、家庭を持ち、子どもの養育費や、家・マンションのローン返済に追われる生活をしていたはずである。それが、まさかの破綻…。あっという間に、家族は崩壊…。
90年代の経済的な悲劇に巻き込まれた親を持つ子どもだった世代が、この影響をもろに受けてきた。その世代が、今、ちょうど、10代後半、20代前半の若者たちなのである。その若者たちは幼少の頃のそのような忌まわしい記憶に対し、トラウマを持ってしまっている。その表れが、うつ病やパニック障害などの精神的な病なのである。おそろしいのは、そのような精神的な病に陥っている生徒と接しているインストラクターが、今度は逆に、精神的な病に陥ってしまう傾向があるというところだ。この若者たちが、このようになってしまったのは、一体、誰の責任なのだろうか。この若者たちを救ってあげられるのは、一体、誰なのだろうか。そして、この若者たちが学校を卒業し、働き始めたら、一体、どうなるのだろうか。