2000年4月号から始まった本誌「FLOOR-net」の本連載「THINKING EVOLUTION」も、遂に次回、最終回を迎えることになった。6年間に渡り、この連載は、日本のクラブシーンの問題点を提起し続けてきた。おそらく、日本のクラブシーンの問題を、毎月、このような形で活字として報道してきたのは、この連載が日本初であり、他になかったのではないかと自負している。それにしても、70回以上に渡り、日本のクラブシーンの問題点を綴ってきたが、それでも、テーマに困ることは一度もなかった。それだけ、この業界には問題がいろいろあるということだろう。次回の最終回を前に、今回は、この連載が始まるきっかけとなった、その秘話を明かしたいと思う。
2000年1月初旬、ある映画配給会社から、ひとつの相談を受けた。U.K.で大ヒットしたクラブ映画「ヒューマン・トラフィック」を日本で上映するにあたり、その宣伝を兼ねたイベントをしたいというものだった。この映画は、1999年にU.K.で、年間映画興行成績第3位を記録し(1位は「スターウォーズ・エピソードⅠ」、2位は「ノッティングヒルの恋人」)、サントラには、オービタルやC.J.ボーランドなど、そうそうたるアーティストたちが参加していた。僕は、1998年と1999年に、渋谷と原宿の間を、DJブースとサウンドシステムを搭載したトラックを、ハウスやテクノ、ドラム&ベースなどのジャンルごとに数台つくり、そのトラックを先頭に道路を踊ってパレードする「レインボーパレード」を主催し、当時の厚生省や外務省などの国の後援を得て、環境問題とクラブカルチャーの融合を図り、2万人以上を動員した大イベントを成功させていた。
そこで、代々木体育館横のオリンピックプラザという野外の広大なスペースで、ドラッグ問題や環境問題など、さまざまな社会問題をテーマとした「THINKING EVOLUTION」というイベントを、クラブ映画「ヒューマン・トラフィック」の全面サポートという形で開催していこうということが決まった。数万人規模を予定した、この大野外フリーパーティには、本誌「FLOOR-net」も全面的に協力してくれることになった。6月4日に開催日が決定した、その「THINKING EVOLUTION」の事前告知的な意味を含め、ちょうど、リニューアルチェンジした「FLOOR-net」4月号からこの「THINKING EVOLUTION」の連載がスタートしたのである。
「東京・渋谷で数万人規模のフリーレイヴを開催します。テーマは、ドラッグ問題、環境問題などの社会問題」。このイベントを開催するにあたり、このような主旨のラブレターを、サントラに参加しているアーティストたちに送ったところ、なんと、あのオービタルから驚くべき返事が届いた。「そのような素晴らしいパーティに是非とも参加させてほしい。ギャラはいらない」。この知らせに、僕をはじめ、スタッフ一同、大喜びした。
その後、開催に向けて、内部で紆余曲折があり、一時は中止にまで追い込まれたこともあった。しかし、開催の半月前に決行が決定、その時点からフライヤーを印刷し始めた。その結果、フライヤーが完成したのが、なんと、開催の10日前。僕は、それまで15年間、数々のイベントを成功させてきた、そのありとあらゆる秘蔵のノウハウを全て駆使して、フライヤーを配布。あまりにも告知の期間が短かすぎるために、会場のスケールを小さくする工夫をしたほどだった。開催日の前日の大雨で、僕の不安はピークに達した。
しかし、6月4日当日、その不安や焦りは、当日の朝を迎え、すっかり、どこかへ消え去っていた。6月にしては、信じられないほどの快晴! もう、その青空だけで満足だった。しかし、その日、まさに奇跡は起こった。DJ YU-TA、TOKUNAGA、DJ 19と、タイムテーブルが進むにつれ、増してくる人、人、人…。夕方には、広大な敷地がぎっしり人で埋まっていた。警察発表、延べ動員人数約4万人。これは、今だに破られていない、日本クラブ史上、最も動員の多い輝かしい記録である。そして、遂に大御所・オービタルがステージに登場すると、4万人のクラウドの興奮は絶頂に達し、その歓声は地響きとなり、なんと、渋谷の公園通りにまで響いたという。そこにした誰もが鳥肌を覚えた瞬間だった。
あれから6年、今だに「THINKING EVOLUTION」を、人生の中で最高のイベントだったと言ってくれる人があまりにも多いことに驚かされる。あの日、あの夜、帰途につくクラウドの顔…、全員が笑顔に溢れていたのを、今でもはっきり憶えている。4万人のグッドバイヴの力の素晴らしさを実感した、まさに奇跡の一日だった。
その「THINKING EVOLUTION」から始まったこの連載も、次回で最終回を迎える。