第73回(最終回)
クラブシーンの真の進化について考える…


2000年4月号から始まった本誌「FLOOR-net」の本連載「THINKING EVOLUTION」も、遂に今回、最終回を迎えることになった。6年間に渡り、この連載は、日本のクラブシーンの問題点を提起し続けてきた。
連載を始めるきっかけとなったのは、2000年6月4日に、オービタルを招聘し、日本クラブ史上、最高となる約4万人を動員した野外大レイヴ「THINKING EVOLUTION」だった。その大イベントのコンセプトだった、ドラッグ問題や環境問題などの社会問題を、クラブ的な視点で多くのクラヴァーたちに伝えようということで、「FLOOR-net」と連動する形での始まりだった。当時、レイヴでのドラッグが社会問題となっており、そのようなテーマからのスタートとなった。それから、毎月、それまで報じられることのなかったクラブシーンのさまざまな問題について、次々と問題提起していった。サウンドシステムの問題、フロアでの空調の問題、突発性難聴の多発の問題等々、73回に渡り、このような問題について綴ってきたが、それでも、テーマに困ることは一度もなかった。それだけ、この業界には問題がたくさんあるということだろう。
最終回の今回は、現在の日本のクラブシーンの大きな問題の一つについて問題提起したいと思う。近年、海外の大物アーティストやDJが、ほぼ毎週のように来日、クラブシーンは活況を帯びている。これは、一昔前の日本のクラブシーンの状況からいえば、とても贅沢なことであるのだが、ここで一つ、大きな問題が生まれてきている。日本のクラヴァーたちの多くが、海外の大物アーティストのDJプレイを体感することにより、“本物”を味わってしまい、日本人DJのみのパーティに足を運ばなくなってしまっているのである。海外アーティストの出演するパーティはそれだけエントランス料も高く、日本人DJのみのパーティにまで、クラヴァーたちの予算がまわらないということもある。実は今、日本のクラブシーンは危機的な状況を迎えている。クラブシーンが単なる“外タレ”コンサートみたいなエンターテインメントになってしまっているのである。
もともと、クラブシーンとは、誰でも、個人個人が、やる気さえあれば、パーティを開けるインディペンデントな存在であるはずなのだ。仲間内で、クラブを借り、フライヤーを作り、それを配り、その結果、多くの人たちが集まってくれ、DJのかける音楽で、みんなで楽しく踊る…、これがクラブの原点であるはずなのだ。DJ、オーガナイザー、デザイナーなど、多くの人たちの表現の場、それとともに、多くの人たちが楽しめる場、出会いの場…、これが真のクラブシーンであるはずなのだ。ハウス、テクノ、ドラム&ベース、トランスなど、今の世界中のクラブシーンの発展の源となった、1987年にU.K.で起こった「セカンド・サマー・オブ・ラブ」ムーブメントの始まりも、もとはといえば、スペインのイビサ島のクラブDJたちのバレアレック・スタイルに触発された、当時、まだ、無名の若者だったポール・オーケンフォルドらが、ロンドンに帰って来て、地元の中学校の体育館で始めたダンス・パーティが次第に大きくなっていったものなのだ。
日本のクラブシーンにおいて、海外の大物アーティストのDJプレイから“本物”を感じることはとても大事だ。しかし、そればかりになって、日本の、本当の意味でのクラブシーンが衰退してしまっている今の状況は、まさに“本末転倒”だと思う。本当の意味でのクラブシーンの発展とは、仲間内で始めたパーティがあまりにも楽しく、新しく、魅力的なものなので、多くの人たちが集まり、そのようなパーティが“同時多発的”に起こって、ムーブメントになっていく…、その噂を聞きつけて、海外からも多くの人たちがやってくる…ことなのだろうと思う。
このように、日本のクラブシーンの真の進化のために、これからも、日本のクラブシーンについて、みんなで考えよう!
Thinking Evolution!
6年間に渡り、ご愛読、ありがとうございました。